【一章】昼寝 ページ1
結婚式は特別変わったことは無かった。
Aは当世では幸せな結婚をしたと言えよう。自分で望んだ相手である。
この身柄をこの(自称)吸血鬼に差し出したのだとはっきり自覚してから、Aはたとえこの血が全てこの人の養分となろうとも、恨み言は言うまいと『神様』に誓った。
彼女はまだぼんやりしている目で、これから一生付き添っていく自分の亭主を眺めていた。
頭を重たそうにもたげ、男のそれにしては艶やかな黒髪が頬に沿って流れていた。伏せられた目の淵を長いまつ毛が覆っている。
昼間の活動を嫌う彼の肌は抜けるように白く、昨晩夜の闇の中で見たルビーのような紅い瞳は、ひょっとすると血の色が透けたものなんじゃないかと思えてくるくらいだ。
とにかく、現時点では彼の、朔間凛月という男の見た目の良さは認める他あるまい。
この国の上流階級の人間の活動時間は夜だ。
お城では毎晩のように舞踏会が催され、朝日の登るころまでたっぷり遊んだ後は、昼までパタリと寝ている。そんな事でどうして生計をたてられるかというと、自分の家の領の農民達が汗を流して作った作物を税として徴収しているからだ。
身分の制度がある以上、生まれた時から自分の一生は決まっていて、旧来からの貴族の家に生まれたAは、こうして朔間家の次男であるこの男と結婚したのだった。
自らの運命に抗おうという気持ちはさらさらなかった。
そもそも彼女に自らの人生を切り開くという発想はなかったし、それが当たり前だった。
はずだ。
王都に住み、父や他の貴族達の遊び暮らす生活を見ていたAには、むしろそこから離れられて良かったとすら思われる。
Aにとってこの婚儀はひらりと舞い込んだ幸運であった。
我が亭主は、代々の家柄である地位以外に、一世限りの騎士の称号を持っていた。
この国では、貴族とはすなわち戦う人で、戦争にでもなれば真っ直ぐに駆けつけていく。
国を守る義務がある代わりに、自分の領ではたくさんの権限が与えられている。先述の通り税を取り立てる権利など。詳しくはおいおい出てくるので今は省略するが。
「あの、」
Aは勇気を振り絞って声を出した。
「なに?……今話しかけないでよね……俺は眠いんだから。あとちょっと、カーテン閉めてくんない?」
「はい」
Aは椅子から立ち上がった。
80人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「あんスタ」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
さなえ(プロフ) - フラッペさん» コメントありがとうございます。お褒めに預かり光栄です。細かいところにこだわって書いてみました。 (2018年8月18日 16時) (レス) id: b33fb32224 (このIDを非表示/違反報告)
フラッペ - お話の内容が濃くて私的には面白い物語でした。こういう細かな文章が好きで、なんか一つ一つに感情がこもっているというか……まぁ、とにかく良い話でした。 (2018年8月16日 1時) (レス) id: 0c5a8c4f79 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:さなえ@Love伊織 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/sanaeHome/
作成日時:2017年7月29日 16時