検索窓
今日:1 hit、昨日:20 hit、合計:22,031 hit

第14話 ページ14

.



.



夏休み最後の登校日、Aは焦っていた。


「お母さん!なんで起こしてくれなかったの!」


最後の最後で、寝坊をしてしまった。

鎖骨より少し伸びた髪の毛はAの言う事を聞かずに四方八方に跳ねていて、直る気配がなかった。Aの苛立ちは収まらなかった。
電車の時間まであと15分。間に合う気がしなかった。



日焼け止めを塗って下地を塗って、更に青みのある下地を重ねた。コンシーラーで目元の隈を隠し、全体にパウダーを重ねて眉毛を自然に書いてから眉マスカラで仕上げを。
校則違反のまつ毛パーマをした睫毛にマスカラを重ねていく。





残り5分。全く女ってやつは!

「行ってきます!」

これまた校則違反のヒールの高いローファーを履いて玄関を飛び出した。日差しが暑い、伸びた髪の毛も鬱陶しかった。



.




無事終業式に滑り込んだAは息を切らしながらクラスの列を探していた。3年生だから右側のはず。Aは学生達の間をすり抜けて歩き出した。

噎せ返るような熱気にAは舌打ちがしたくなった。暑い、とにかく暑い。


「あ」

そんな中、Aは見覚えのある後ろ姿を見つけた。自分が嫌になった。越前だ。間違えるはずもない。


だって彼の斜め前には艶々な三つ編みが揺れていたのだから。





「A!」

カクテルパーティー現象。騒めきの中で、自分の名前が鮮明に聞こえてきた。

誰かが振り向いたような気がしたけど、暑さと苛立ちで確認する気になれなかった。


「ギリセーフだよ!」

「危な!」

呼んでくれていたのは友人のようだった。彼女に腕を引っ張られて自分のクラスの列に紛れ込んだ。

Aが引っ張られた腕を見つめていると、彼女は「寝坊?」とAの顔を覗き込んだ。どうして、という顔をしているAに彼女は笑いながら髪の毛に触れた。



「だって、ポニーテールしてたから」

Aは、あぁそっかと答えた。

Aは基本的に髪の毛を結ばずに、下ろす方を好んでいたからだった。髪の毛を結ぶ時は体育の時か、寝坊してしまった時。

なるほど、彼女には気付かれていたのか。


「そう、寝坊」

「珍し、眠かったの?」

「目覚めたくなかったよ」



夢から、ね。


Aの言葉に、彼女の何か言いたげな唇が動きを止めた。
スポットライトが舞台に焦点を当てた、年々横に大きくなっていく校長先生がマイクのスイッチをオンにした。Aは瞳を閉じた。



.




.

第15話→←第13話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.0/10 (48 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
90人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

福原(プロフ) - ぱーぷる姫さん» ありがとうございます‪‪❤︎‬ぱーぷる姫さんにそう言っていただけて光栄です( X_X ) (2月24日 1時) (レス) id: cc2ff694b3 (このIDを非表示/違反報告)
ぱーぷる姫(プロフ) - 涙が溢れ出ました!あまりに綺麗で切ない表現に何度も読み返しました。ありがとうございました! (2月18日 15時) (レス) id: 4d7ac923b9 (このIDを非表示/違反報告)
福原(プロフ) - 幸絵さん» ご感想ありがとうございます(;_;)またどこかで2人が会える日がくることを願っています、、リョーマ!失恋組!初遭遇です!やはり初恋は実らないものですね、、 (2021年11月10日 9時) (レス) id: cc2ff694b3 (このIDを非表示/違反報告)
幸絵(プロフ) - 完結おめでとうございます!ついついヒロインの先輩と結ばれて欲しい〜って思ってしまいました。話は変わりますが、『劇場版リョーマ!』私も失恋した気分になりました! (2021年11月10日 6時) (レス) id: 4696a5fece (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:福原 | 作成日時:2021年9月17日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。