【ttg】透明なうた (ページ1)

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Prolog／beginning. ページ1

真冬の森の中。私は微かに見える程度の道のりに沿って、雪の上を歩く。
雪を踏みしめる、シャリシャリという音が心地よく感じる。

周りは枯れ木だらけで、霧が少し濃い。
視界が悪いのでいい景色とは言えないが、少し幻想的な気はする。

吐く息も白く、まるで自分が氷を操っているみたいだ。

「……あの時みたい。」

地面も視界も真っ白なのに、ただ逃げる為だけに必死に走り回った事から始まった幼少期の出来事は、今でも余さず明確に記憶に残っている。

_＿＿そう、それだけは。
あの時の関連の事だけはくっきり覚えている。
だが、それ以外は本当に、どうでも良くなってしまっていた。
「全て忘れ去りたい」
そう心から願っていた私を神様は救ってくれたのだろうか、それとも天罰だろうか。分からない。

そして、あれは決して美談とは言えない。
人はいとも簡単に狂ってしまう、それだけだった。

小説や詩の様に名付けるとしたら、”私の逃非行”、というべきなのだろうか。
一生忘れることが出来ない、忘れてはいけない悲哀に満ちた思い出に耽けると、手紙が手の中でくしゃくしゃになっていることに気がついた。

手紙の差出人や意図は全く分からないが、
ここを尋ねることで、詩のインスピレーションが見つかるなら、それだけでいい。私は死んでも書き綴らなければいけないのだから。

そんな事を考えて歩き続けていたら、大きな門に目に止まった。

その門の奥に聳え立つ、少し古ぼけた立派な洋館は、夜の月日に照らされ不気味な雰囲気を醸し出している。

こんな所で、良い詩は書けるのだろうか。
寧ろ不安を煽る様な、気味の悪い詩しか書けなさそうだが。

……まあ、兎も角行ってみよう。
中は暖かいかもしれない。

コンコンコン、重い扉を叩く重低音が鳴り響く。

「誰か居ませんか？」

「ようこそ！！荘園へ！」

思ったよりもそこは、暖かい
否、寧ろ私にとっては、暖かすぎる場所なのかもしれない。