【wrwrd!】とある総統秘書の憂鬱

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上がる煙、舞い散る煤。
誰かの怒号と、城中を駆け回る音。
火の手が上がったのは中庭と裏手だけではなかったようで、今や兵も使用人もごちゃ混ぜになって消火や避難に努める。

そんな中、人目を避けて窓から木へ飛び移る男が一人。
小脇には何かを軽々と抱えていた。




誰もいない城の脇道、伝令のために近道しようと横切る一兵卒は、かつてない城の騒ぎに焦りながらも役目を全うしようと走る、走る。
しかし頭上で不自然にしなった幹の音に、思わず首を上へ向けた。


「ッ！？A様！！」

丸くした目に映るのは、明らかな不審者と抱えられている我らが総統秘書。
自由を奪われた彼女が、今まさに自分の前から、我々の城から連れ去られそうになっていた。
軽く響く男の舌打ち、しかしそんな音など耳に入らない。
震える手で腰の獲物へ手を伸ばす。


「き、貴様！何者だ！A様を放せ！！」
「……」
「A様、待っててください、すぐにお助けを…！」
『私はいいから早く総統室へ！グルッペン様が意識不明で倒れてる！』


叫ばれた声に兵は更に目を見開く。
あの総統が意識不明、しかし彼女が不確かな嘘を言う訳もなく、何よりAの必死な顔がそれを事実付けた。
だが、しかし。
葛藤する彼にAが畳み掛ける。


『行って！他に仲間が居る可能性がある！こっちは何とかするから総統室固めて！』
「！で、ですが！」
『これは命令です！無防備な総統殺られる訳にいかないでしょ！』


珍しく荒げられた声。
滅多に発令されない彼女からの命に兵は思わず身震いする。
やがて顔を歪めて未練をたっぷり滲ませながら、すぐに助けを呼ぶと叫んでようやくその場から踵を返した。






「……」
『…何か？』
「…それが本心か？」
『これも本心ですし、先程の取り引きも嘘ではありません』


明快なようで曖昧な答え方をするAに、男は僅かに目を細める。
だがここで長時間立ち止まるほど間抜けでもなく、すぐに枝から飛ぶと静かにその場を走り去った。

腕に無抵抗のAを抱えたまま。





揺れる視界、過ぎ去る景色、これからどこへ運ばれるのか、全く想像がつかない。
そして着いた先でどんな展開が、待遇が、恐怖が待ち受けているのか、それは彼女をもってしてもわからない。


だが、賽は既に投げられたのだ。


あとはこの博打にどこまで乗れるか。
どこまで読めるか、どこまで強気なハッタリを貫けるか。
持っている賭け金は、情報と自らの命のみ。

イカサマありの真剣勝負、倒れた総統と残してきた仲間を思いながら、Aは胸中で静かに手札を数えた。

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