【wrwrd!】とある総統秘書の憂鬱

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『取り引き、しませんか？国ではなく、貴方と私個人で』


まっすぐ相手を見据えたA、その顔に先程までの焦りは見られない。
かと言って向かってくる姿勢でも騙し討ちを狙う様子でもなく、ただ対話を望んでいる態度に、男は警戒を解かずにAを見つめ返す。
それを聞く姿勢と取り、彼女も静かに言葉を続けた。


『どこの国かはわかりませんが、貴方は一時的に、または長期にわたってその国に雇われている方か、もしくは国内でそれなりに地位の高い方とお見受けしました。そしてその実力の高さから、ある程度の自由を許されている。現場でのことは貴方の判断に委ねられている節がある』
「……」
『今回こちらにいらっしゃった目的は我々の総統の暗殺ではなく拉致ですね？そして何らかの交渉やあるいは戦争の人質として握っておきたい、と』


続く沈黙。
外の喧騒が嘘のように、この部屋だけはやけに静かだ。
一つ息を吸い込んで、Aが再度口を開いた。


『そこで、私から提案なのですが、』



総統の代わりに私を拉致していただけませんか？



何の感情もなく、日常会話でもするかのように投げかけた彼女に、男が微かに目を見開いた。
Aの提案は尚も続く。


『ご存知かわかりませんが、私はこの国で総統秘書を務めています。総統、書記長の元へくる内容も含めてこの国の情報はかなり認識している立場です。そして以前はアステールの外交官を務めていました。未だに外交パーティーにも呼んでいただけるので、周辺諸国の情勢等でもお役に立てるかと思います。そうですね、場合によっては私をネタに他国の協力も仰げるかもしれません』
「……」
『貴方にとっても寝首を掻かれそうな男性を連れていくよりリスクは少ないでしょう。既にお分かりでしょうが、私は戦闘には特化していませんのでかなり非力な方かと』
「…何故、自らそんなことを提案する」


一層低いくぐもった低音が布の下で響く。
ようやく口を開いた男は訝しげに、しかし見定めるように目を細めていた。
それに対し、Aはにこりと、しかし毅然と微笑む。



『私は総統秘書なので、彼を連れて行かれるといろいろと困るんですよ。かと言って貴方から総統を守るだけの力はない。そして貴方は、ご自分の立場と仕事にプライドを持ち、恐らく命令や指示よりもその先の大局を見据えられる方だと思うので。故の取り引きです』


いかがでしょうか？

軽く首を傾げるA。
男は相変わらず黙ったままだったが、やがてその手のナイフをゆっくりとポケットへしまった。

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