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過ぎゆく景色は風と共にあっという間に流れていき、軽く上下に揺れる衝撃がAの髪を揺らす。
先程よりも遥かに早いスピードで駆けていく外道丸はどこか解放されたかのように伸びやかだ。
しかし景色を楽しむ余裕がなく、ただただ固まって落下しないように注意を払うA。
その耳にすぐ真後ろから苦笑気味のくぐもった声が聞こえてくる。


「大丈夫?怖い?」
『い、いえ、怖くはないのですが…気を抜くと落ちそうで…!』
「落ちないよ。てか落とさない。腕でもちゃんとガードしてるし、いざとなっても支えるから」

後ろに座って手綱を引くひとらんらんとの距離はずいぶんと近い。
手綱と腕に前方と側面を囲われ、少し身体を反らせば背後の彼の身体に当たりそうなこの体勢はある意味ひとらんらんの腕の中にいるようで。
だがそんな距離よりも初めての乗馬の方がAにとっては不安を与えている。


「ほら、せっかくだから景色見ようよ。風も気持ちいいよ」
『は、はい』

なんとか再び顔を上げれば既に敷地を出て街も通り過ぎており、小高い丘を登っているところだった。
空が近く、しかし青く高く、周りの緑とのコントラストが目に優しい。
そびえ立つ木から小鳥が飛び立ち、少し遠くの眼下には抜けてきた街が見えている。
美しい風景に思わず感嘆した。


『…乗馬、楽しいですね』
「ほんと?よかった。次は一人で乗ってみる?」
『むっ無理です…!私にはまだハードルが高くて…!』
「そうかな?まあまた乗りたくなったら言って。外道丸もAのこと気に入ったみたいだし」

そっと背を撫でれば伝わってくる体温。
なかなか気性が荒いと聞いていた彼はずいぶんとおとなしかった。






「…ん?」

ふと声を発したひとらんらん。
この距離で聞こえないはずもなく、Aも何事かと彼に問う。
ゆっくりと落ちていく速度、ある一点に向かっているようだ。
やがて完全に止まった外道丸から一人降りたひとらんらんは、少し荒れた様子の茂みへと警戒しながら歩いていく。



「…おかしい」
『荒れていますね。…いえ、荒らされてる…?』
「うん、人為的だ。この前来た時はなかったし」

人の気配がないことを察した彼がその場の観察を続けていると、茂みの影に何かが落ちているのに気がついた。
鈍く光る、指でつまめる大きさのそれは、


「…銃弾」
『ひとらんらんさん、あちらにも』

視点の高いAが指差した方向には破れたハンドタオル。
ひとらんらんは静かに顔をしかめた。

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ミリオ - 小説読ませていただいてます!いやもう読む手が止まらないくらい、面白いです。グル氏の少し子供っぽいところがツボで、来るたんびに部屋で一人で「キャー!!」って言ってますw私は読むことしかできませんが、これからも頑張ってください! (2020年3月23日 2時) (レス) id: 5e8093b1cc (このIDを非表示/違反報告)
璃亜(プロフ) - 豆粒さん» コメントありがとうございます。わかりやすいですか…!?嬉しいです!更新遅くて申し訳ないですが、またいらしていただけると嬉しいです。 (2017年11月27日 8時) (レス) id: 97b5822f0b (このIDを非表示/違反報告)
豆粒 - はじめまして!内容が濃くて続きが気になってしまいます(*´∀`*)あと その場の状況がわかりやすい詳しい文にとても惹き付けられちゃいます、更新お疲れさまですっ (2017年11月26日 20時) (レス) id: 6ecce97bae (このIDを非表示/違反報告)
璃亜(プロフ) - RIARUさん» コメントありがとうございます。面白いと思っていただけて嬉しいです!いえいえ、私の話は参考にできるほどではないので…。ゼロからオリジナルで書かれた方がもっと面白いお話ができるかと思います。 (2017年11月21日 12時) (レス) id: 97b5822f0b (このIDを非表示/違反報告)
RIARU(プロフ) - 作品読ませていただいてます!とても面白いです。私も小説を書いてるんですが参考にしてもよろしいでしょうか?失礼だったらすみません。 (2017年11月19日 21時) (レス) id: 88c227d681 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:璃亜 | 作成日時:2017年7月7日 23時

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