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外務大臣は会場の隅までやってくると、改めて秘書官と向き直る。
Aとしては会場外に連れ出される可能性も考えていただけに、目の届く範囲に場所を落ち着けた男の性格をここでようやく思い出した。
見かけによらず、根は誠実だということを。


「悪いね、急に。我々の皆さんには相当睨まれてしまったけど」
『いえ、…あの、外務大臣殿、失礼ですが私から先にお話ししてもよろしいですか』
「構わないよ」

固まった顔を引き締めて背筋を正す。
そして微笑む相手を一瞬だけ見ると、すぐに頭を下げて磨き上げられた床を視界に映した。


『…この度は、誠に申し訳ございませんでした。責任を取って軍を退いた私が新たな軍に居るなど、外務大臣殿にはとてもお許しいただけないとは思いますが…』
「…それは何の謝罪だい?」

少しだけ冷えた声色にAはそのままの姿勢で固まる。
一度唇を噛んで、躊躇うように理由を述べた。

『…ですから、私のせいで、大佐が…』
「確かにエーデルは君を庇って亡くなったらしいね。だけどそれを他国の私に謝罪する理由はないだろう?」
『…外務大臣殿と大佐は、昔から親しくされていて、…その、…』
「君らしくないな。まあ言いたいことはわかった。何故旧友の死の原因である君が新たな国でのうのうと生きているのか、それに関して私が憤りを感じないはずがないと、そう思っているんだね?」

胸を刺すような痛み。
肉体は何一つ傷ついていないはずなのに、彼の言葉はAにとっては鋭すぎた。
しかしその通り過ぎて何も言い返すことはできない。
沈黙を肯定と取ったのか、男は小さくため息を吐く。
その僅かな空気の揺れでさえAの肩を震わせた。


「…なめられたものだな」
『っ、』
「私が君を恨むはずがないだろう。そんな筋違いの人間だと思われていたとはね」

弾かれたように顔を上げるA。
そこには先程より少し柔らかく微笑む外務大臣の姿があった。

「エーデルは昔からそういう奴だった。張り合う相手がいなくなってしまったのは残念だけど、そこまでして守った君はあいつにとって大事な部下だったんだろうし、その君がエーデルの思いを無駄にせずに立っているならそれで十分だ」
『外務大臣殿…』
「むしろ責任を感じて勝手に自害でもしようものならそっちの方が恨んだだろうね。でも君はそこまで馬鹿じゃないだろう?」

微笑む外務大臣は実年齢よりも若く見える。
その顔に少しだけ救われた気がして、Aは再度頭を下げた。

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ミリオ - 小説読ませていただいてます!いやもう読む手が止まらないくらい、面白いです。グル氏の少し子供っぽいところがツボで、来るたんびに部屋で一人で「キャー!!」って言ってますw私は読むことしかできませんが、これからも頑張ってください! (2020年3月23日 2時) (レス) id: 5e8093b1cc (このIDを非表示/違反報告)
璃亜(プロフ) - 豆粒さん» コメントありがとうございます。わかりやすいですか…!?嬉しいです!更新遅くて申し訳ないですが、またいらしていただけると嬉しいです。 (2017年11月27日 8時) (レス) id: 97b5822f0b (このIDを非表示/違反報告)
豆粒 - はじめまして!内容が濃くて続きが気になってしまいます(*´∀`*)あと その場の状況がわかりやすい詳しい文にとても惹き付けられちゃいます、更新お疲れさまですっ (2017年11月26日 20時) (レス) id: 6ecce97bae (このIDを非表示/違反報告)
璃亜(プロフ) - RIARUさん» コメントありがとうございます。面白いと思っていただけて嬉しいです!いえいえ、私の話は参考にできるほどではないので…。ゼロからオリジナルで書かれた方がもっと面白いお話ができるかと思います。 (2017年11月21日 12時) (レス) id: 97b5822f0b (このIDを非表示/違反報告)
RIARU(プロフ) - 作品読ませていただいてます!とても面白いです。私も小説を書いてるんですが参考にしてもよろしいでしょうか?失礼だったらすみません。 (2017年11月19日 21時) (レス) id: 88c227d681 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:璃亜 | 作成日時:2017年7月7日 23時

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