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役職を聞いて一番に疑問に思ったことがある。
『…以前何度もお邪魔させていただきましたが、私は総統秘書の方にはお会いしたことがないのですが』
「それはそうだろう。そもそもいないからな」
さらっと言ってのけた彼は事の重大さを理解していない。
つまり今まで雇ってこなかったポジションをAの為に新たに作ろうとしているのだ。
『そんな大役に他国の私がいきなり就任すれば、面白くないと思う方が大勢いらっしゃるでしょうね」
「そうとは限らん。元々外交官としての噂は広まっていたし、滞在中の幹部とのやりとりも多く目撃されている。そもそも俺自身が二度も足を運んで勧誘しているのだから文句を言う奴は少ないだろう。後は仕事ぶりを見れば納得するはずだ」
『ずいぶん高く買っていただいているようで恐縮ですが、幹部の皆様の中にも反対する方はいるのでは?』
「いる訳ないだろう。言っておくがこの話は独断じゃないぞ。ちゃんと仕事としても役職としても成り立つように調整したし、あいつらもお前になら任せてもいいと言っている」
誇らしげに言うグルッペンにいつかの鬱の言葉が思い出される。
部屋にこもって一人でって、まさかこの件をまとめていたんじゃないだろうな。
さすがにそこまで暇ではないか、そうだとしたら力を入れすぎだ。
「あと幹部同様の権限をつけることにした。直属の部下はいないがある程度なら他の奴の部下も使っていいぞ」
『それはまたいろいろと問題になりそうですね』
「正式に軍内に知らせておくから問題はない」
『私が気を遣います。…トントンさんはこの件について何と?一番影響を受ける方だと思いますが』
「Aがちゃんと納得した上で承諾してくれるなら是非にと。…無理強いはしたくないから嫌なら断っていいとも言っていたな」
まあ俺は諦める気はないが、と付け加えて紅茶を飲むグルッペン。
実質一択じゃないか、それならトントンにも同席してほしかった。
脳内で愚痴めいたことを考えているAを一瞥すると、目の前の男はカップを置いて少し視線を逸らす。
「……ああそれと、別に今すぐ俺に忠誠を誓わなくていい」
まさかの言葉に思わず目を丸くする。
「そういうのは積み上げた時間と関係性が作ることもある。すぐに彼を超えるのは難しいんだろう。なら共に仕事をしていく中で少しずつ信頼を寄せてくれればいい」
ここまで譲歩してもらえるとは。
何より大佐を忘れなくていいという事実がAには嬉しかった。
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はろ - 初コメ失礼します。今日初めてこの小説を見つけ一気に読んでしまいました。素敵な作品をありがとうございます! (2019年5月10日 23時) (レス) id: 04eaede967 (このIDを非表示/違反報告)
すみれいん(プロフ) - あ、あの、エーデルが死ぬと思ってなくて思わず涙が……(T ^ T)作品好きです!ま、まさかのおおおおってなっておりますっっ! (2019年4月26日 17時) (レス) id: 0dc2b364d7 (このIDを非表示/違反報告)
璃亜(プロフ) - フーさんさん» コメントありがとうございます。ボキャブラリー広いですか…!?まだまだ勉強不足な面もありますが、そう言っていただけて嬉しいです!ありがとうございます。続編もあるのでよかったらご覧になってみてください。 (2018年3月14日 21時) (レス) id: 97b5822f0b (このIDを非表示/違反報告)
フーさん - 主様のボキャブラリー広すぎるぅううう… (2018年3月14日 13時) (レス) id: c25a3a0724 (このIDを非表示/違反報告)
璃亜(プロフ) - 遊馬さん» コメントありがとうございます。まだまだ拙いですが、お褒めのお言葉とても嬉しいです…!お気遣いありがとうございます。次作もどうぞよろしくお願いします。 (2017年7月7日 14時) (レス) id: 97b5822f0b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:璃亜 | 作成日時:2017年5月24日 22時