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たまには買い物でも、と考えて引きこもりがちな家を出た。
どうせなら近所ではなくいつもより少し遠くまで行こう、と交易場の近くまで来た。
活気付く人々の中には他所の国の人間と思われる人々もいる。
どこかの国が買い付けに来てるのだろうと眺めながら歩いていると、既視感のある後ろ姿を見つけてしまった。

『…兄さん?』

ポツリと呟いただけだったが、彼はその呟きに反応して振り返る。
揺れるストールにはやはり見覚えがあった。


「A?…ああ、まあここアステールやしな、居てもおかしくないわな」

一瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐに兄さんは苦笑を浮かべてこちらへ歩み寄ってくる。

「元気、ではないよな。ちゃんと飯食ってる?ロボロとぺ神が心配しとったで」
『一応食べてますよ。…食べないと元部下達がうるさいので』
「それ言われんかったら食わんやつやん」

眼鏡の奥で僅かに眉間に皺を寄せる。
しかしAはそれには言及せずに作業をしている彼の部下達を眺めた。


『…戦争ですか?』

心なしか低くなってしまった声で兄さんに問いかける。
ただの貿易にしては量が多い。
彼は視界の端で肩をすくめると疲れたような声を出した。

「ちゃうよ、これは補充。そんなしょっちゅうやってたら俺が過労死するわ。言っても聞かんアホ共もいるけど」
『そうですか』
「…A、ちょっと話そか。どっか座ろう」

そう微笑むと兄さんは背後の部下に一声かける。
Aを近くのベンチへ座らせて少しその場を離れると、どこで買ってきたのか紙コップに入れられたコーヒーを二つ持って戻ってきた。


『あの、申し訳ないです』
「そんなん気にせんでええよ。ああ、うちのアホが四人もお邪魔したらしいし、お詫びやお詫び」

困ったように笑う兄さんに逆らえずそのままコーヒーを受け取る。
彼は隣に腰掛けて一口飲むと、前を向いたままAに話しかけた。


「何か聞きたいことあるんやろ?」
『…何でわかったんですか』
「そんな顔しとった気がした。まあ言いたくないならそれでもええけど」

落ち着いた声で、しかし急かすことなく問いかける兄さん。
以前から彼とは適度な距離感があった。
心情的にも近すぎず遠すぎないその距離感がAには心地よかった。
だからつい、気が緩んでしまった。


『…ではお言葉に甘えてお聞きしますが……戦争は、お好きですか?』

思っていたより冷静な声が出たことに安堵する。
そのままAは静かに彼の答えを待った。

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はろ - 初コメ失礼します。今日初めてこの小説を見つけ一気に読んでしまいました。素敵な作品をありがとうございます! (2019年5月10日 23時) (レス) id: 04eaede967 (このIDを非表示/違反報告)
すみれいん(プロフ) - あ、あの、エーデルが死ぬと思ってなくて思わず涙が……(T ^ T)作品好きです!ま、まさかのおおおおってなっておりますっっ! (2019年4月26日 17時) (レス) id: 0dc2b364d7 (このIDを非表示/違反報告)
璃亜(プロフ) - フーさんさん» コメントありがとうございます。ボキャブラリー広いですか…!?まだまだ勉強不足な面もありますが、そう言っていただけて嬉しいです!ありがとうございます。続編もあるのでよかったらご覧になってみてください。 (2018年3月14日 21時) (レス) id: 97b5822f0b (このIDを非表示/違反報告)
フーさん - 主様のボキャブラリー広すぎるぅううう… (2018年3月14日 13時) (レス) id: c25a3a0724 (このIDを非表示/違反報告)
璃亜(プロフ) - 遊馬さん» コメントありがとうございます。まだまだ拙いですが、お褒めのお言葉とても嬉しいです…!お気遣いありがとうございます。次作もどうぞよろしくお願いします。 (2017年7月7日 14時) (レス) id: 97b5822f0b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:璃亜 | 作成日時:2017年5月24日 22時

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