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A「口、切れてる？」
慧「ん、血がまじぃ」
A「………、」
私は上手く頭が回らず、
何を言っていいか分からず、
ただ、大丈夫？と同じことをロボットみたく繰り返していたかもしれない。
とにかくあの張り詰めた空気から離れることで、
平静を保とうとしていた。
きっと本人たちと同じくらい、高鳴っている心臓を落ち着けようとぎゅっと手を握って、動揺を表に出さないようにと密やかに呼吸を繰り返した。
人気の少ない廊下、
伊野尾君の少し後ろを、目に熱く集まる涙を堪えるためにぐっと息を潜め歩いていた。
眩しいほどの陽光に蝉の声が聞こえる昇降口は、まさに夏だと思うけど、
今はとてもそんな季節の移り変わりを眺めている余裕なんてなかった。
傘立てに腰を下ろす伊野尾君が、いって！と顔を顰め痛がるのに謝りながら、濡らしたハンカチを腫れた目元にそっとあてた。
A「やっぱり…保健室、行ったほうがいいかな…。」
慧「いーよ。こんなの殴られた傷にしか見えねーし、学校で殴った殴られた、とかなったらあいつもヤバいっしょ。」
A「………ん、」
例え本人たちがもういいと言おうと、学校内でそんなことがあったと知れたらそれはもう暴力沙汰となって、見過ごす訳にはいかなくなる。
そしてもし、そんなことになったら、
あいつはきっと部活には出られないだろうし、
最悪、もうすぐ始まる夏の大会自体が危なくなってしまうかもしれない。
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作者名：環
| 作成日時：2018年7月16日 19時
