2人の短いお話 その2

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「あー、もう俺お腹いっぱい。
無理、もう聞きたくなぁい！」


ぽい、と枝豆の殻を俺に投げつけて来たのは、恋人の直属の部下、である北山だった。



「一緒に住み始めてから、ガヤさん本当可愛くてやばいんだよ」
「はいはい、聞き飽きました〜」



ビールを飲み干して、新たな1杯を注文しながら北山は面倒くさそうにスマホをいじり始めた。

そんな北山の態度でさえ俺は全く気にならないのだから、相当、恋に盲目になっているのだろう。




「あ、ほら、これ見てくださいよ」
「何？…って、は！？」
「この前、出張に行った時の藤ヶ谷さん」
「はあ？お前、まじで…っ」




掴みかかりそうになったところに、タイミングが良いのか悪いのか店員が新たな酒を持って来た。


北山のスマホの画面に表示されていたのは、出張先で泊まったであろう旅館の浴衣姿のガヤさんで。
お酒が入っているのか、風呂上りなのかは分からないけれど、ほんのりと頬を蒸気させてレンズを不思議そうに見つめている。




「送ってほしいっすか」



ニヤリ、と口角を上げて俺に突き付けてくる北山に、俺はぐうう、と唸り声をあげた。



「くそ…まじで、お前…」



じろ、と睨んでも完全に分が悪い。



「送って、く、だ、さい」
「素直で宜しい」



アッアッアッ、と独特な高笑いをして、北山はスマホの画面を操作した。
着信を知らせる音が俺のスマホから鳴った瞬間に画面を開き、その写真を即保存した。



「あー、楽しい」

「はあ？こっちは何も楽しくねえよ。
まじでお前ガヤさんの周りに近寄らないで欲しい」

「そんな俺に惚気てんのは誰なんすか」

「聞いてくれるだけで良いんだっつーの！
お前は仲良くならなくて良いの！」




俺とガヤさんの関係を知る唯一の人物である北山は、俺にとっては丁度良い飲み相手だ。

こうして酒の席で、ガヤさんの話を聞いてくれるだけで良いのに、何故かコイツは人見知りな恋人と馬が合うらしく、仲が良いのが気に食わない。




「いっつも惚気しか聞かされませんけど、喧嘩とかしないんすか？」




スマホの中の恋人を、可愛いなあ、だなんて眺めていると、北山からそんな質問が飛んできた。



「喧嘩？」
「そう。藤ヶ谷さんと喧嘩」
「…んー、別に、しないことも無いよ？」
「えっ、まじっすか？藤ヶ谷さん怒ることあるんすか？」
「怒る、っていうか、怒らせちゃうことはあるかな」




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