魔王の勇者 (ページ29)

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出発の日ページ29

ルナさんと話をした翌日、僕は荷物を詰めた鞄を持って部屋を出る。

「この部屋ともしばらくお別れだな。」

　そう呟いて後ろ手に扉を閉めてゆっくり城内を見つつ城門に向かって歩いて行く。城内ですれ違うメイドや執事、衛士として働いている魔族たちが笑顔で「いってらっしゃい」と笑いかけて手を振ってくれる。

「最初はどうなるかと思ったけど、いつの間にかこの城での生活に馴染んでたんだなぁ……。」

　城門前の広間の中心でしみじみと感傷に浸っていると、急に左右の部屋へ続く扉が開き、大勢の魔族が出てくる気配がした。僕が通ってきた方の門が開かれ、そちらに視線を飛ばすとルナさんがレナさんを筆頭に側近を連れて入ってきた。

「え？……魔王様！？」

　僕が驚いて思わず叫ぶと、一瞬ニヤリと笑ったルナさんは腰に手をあてて威厳に満ちた表情を浮かべる。

「聞け！我、魔王ルクシア=マファナ=ナレリルはここにいる異世界の人族流真を、我々魔族の仲間として受け入れたいと思っている！異論があるやつは今出て来るがよい！」

　ルナさんの宣言に反論しようとする魔族は誰一人として居なかった。

「ふっ……これは誰も異議なしということで良いな？大老も文句はあるか？」

　大老と呼ばれた老練そうな魔族はその立派な白髭を撫でつつ口を開く。

「勿論でございます。此奴は我ら魔族が人族とは異なる容姿をしているにも関わらず分け隔てなく接しておりました。少なくともこの魔王城に住まう者に彼を敵視するものはおりますまい。ただ……一つ懸念することがあるとすれば、地方の魔王の地位を狙う野心溢れた輩には人族というだけで憎悪の心を燃やす者もおりますゆえ。」
「ふむ。それもそうだな。」

　大老の言葉に頷いたルナさんは僕の方を見る。

「聞いていたな？流真。全ての魔族が、とは言えないが我々はお前を仲間と認めた。修行は大変だろうがお前なら耐えうると信じているぞ！」
「……はい！」

　大きく返事をした僕を見てルナさんは満足そうに頷いた。

「開門せよ！さぁ、行くがよい！そして必ずや強くなったお前の姿を我らに見せてくれ！」

　あぁ……ったく誰だよ魔族は悪い奴って言ったの。こんなにも良い人達じゃないか……。
　僕は溢れそうになった目尻の雫を拭って、精一杯の笑顔を浮かべる。

「短い間ですがお世話になりました！！行ってきます！！」

　こうして僕は背中に魔王城に住む人々の声を聞きながら目的の館へと走り出すのだった。