18-�� ページ43
.
「…泣いてる？」
「…泣いてない…っ、」
「泣いてる」
彼がふと動きを止め、じっと顔を見つめた。
視界がふっと潤み、少し火照った彼の顔がじんわり滲んだ。
「…ごめん…痛い？」
「…ううん…」
「…泣き虫」
「…だって…っ、」
「…泣かないで」
そっと頬に触れる指が優しくて、思わずその手を握ると、そのまま指を絡めとられた。
「怖くなった…」
「…怖い？」
「…幸せで、」
「……幸せ？」
「…信じられなくて…夢なんじゃないかって…」
顔を見られたくなくて手で顔をおおうと、彼の手がそっとそれを取り除けた。
キスする寸前くらいに顔を近づけ、額と額をくっつけた。
「…Aは…1人じゃないよ…」
「…うん。」
「これは夢なんかじゃないし…俺のこと信じて…？」
「うん…」
ほとんど私は泣いていた。
泣き止むことができずにいると、彼はやっぱりふっと優しく笑った。涙を指ではらい、瞼に一度くちづけた。
「…ほんとは、俺もこうしてるの…夢みたいだよ」
「…樹…くん…っ、ん…ぅ、」
「…俺はどこにも行かないし、全部受け止めてあげる」
「…っあ、…樹くん、」
「…好きだよ。だから、泣かないで…」
優しくそう言って、もう一度キスをし、それからは熱を解放してお互いに求めあった。
そこからは何の言葉もなかったけれど、荒い息と熱の籠もった肌と、時おりもれる声が、存在を証明していた。
ただ幸せで、胸が苦しくなるほど幸せで、わたしはずっと泣いていた。
やっと、ここに帰ってこれた
不思議とそんな想いを抱いた。
ずっと彼がくれていた。
1人で生きていく力や立ち上がる力を。
何度も浮かび上がってきた感情を、伝えることが出来る喜びをかみしめて、深く息を吸った。
そして、彼の腕に、躊躇わずしがみつくことが出来る喜びをかみしめて、彼を抱きしめた。
.
彼がくれる言葉はいつもわたしを支えてくれた。
それはこの先も変わらないのだろう。
来年、3年後、10年後、何年経ってもわたしの心の支えになってくれるのだろう。
今まで樹くんがくれた言葉を、ゆっくり、大切に思い出しながら、彼の腕の中でそんなことを想い続けた。
.
【FIN】
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1360人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
蘭の花(プロフ) - ちょこちっぷさん» 嬉しいお言葉…ありがとうございます。私にとっても大事なこの作品が何か響いていたら幸いです(^^) (2020年3月25日 0時) (
レス) id: 517b3b5b29 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこちっぷ(プロフ) - 久々に占ツク開いて初めに読んだ作品がこれでよかったです。占ツクで沢山の作品を読んできて、泣いたのはこれが初めてです。この作品を読めて幸せです。 (2020年3月23日 0時) (レス) id: cf6328cb96 (このIDを非表示/違反報告)
Knnnnn(プロフ) - ガッツリ書いても全然大丈夫です！読みたいです！ (2019年11月3日 13時) (レス) id: 8d750d6dbf (このIDを非表示/違反報告)
cocona(プロフ) - 全然大丈夫です！！読みたいです！！！ (2019年11月3日 4時) (レス) id: 6508ac86aa (このIDを非表示/違反報告)
ひより(プロフ) - 書いて大丈夫です！！逆に書いて欲しいです！！ (2019年11月3日 1時) (レス) id: c8d254b03b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蘭の花
| 作成日時：2019年9月27日 19時
