それはまるで蜂蜜のような ページ10
いつものように用意してもらった朝ごはんを半分寝ながら食べて、部活に入っていなくても治と学校に行くために朝早くに家を出る。これは習慣だ。
ローファーを履いてトトンとつま先をアスファルトにぶつけると、家のドアを開けて「行ってきます」と覇気のない声で言った。
「A」
最近そこにいるのは治だった。治のはずだった。
それなのに、そこにいたのは彼ではなかったのだ。
私にだけ向ける優しい笑顔。他の子には刺々しいのに、私にだけ柔らかい声色。
私の好きな、ひと。
「あつ、む」
ララちゃんと付き合いだしてから一緒に登下校できなくなった。ララちゃんもまた彼に合わせて早起きをして一緒に行っていたのだ。
思い切り尻尾を振りそうになって、ぐうっと堪えた。だめだ。ここでやめるわけにはいかない。まだ彼がどうしてここにいるのかもわからないのに。
「A!」
名前を呼ばれてビクついた。駆け寄ってきたのは治で、瞬間私の視界は彼で埋まる。
「おさむ」
「……学校行こか」
するりと繋がれた手にようやく心臓は落ち着いてきた。
目的を見失うな、と自分に言い聞かせていると、足音が近づく。
「ララとは別れた」
昔と変わらない笑顔だった。
趣味や特技をみんなの前でしっかり答えることができた時、私に向かって微笑んでくれた、そんな彼の笑顔はよく知るもので。
帰ってきた、と単純な心は治の名札がついた首輪を外しそうになった。
「やからまたAと一緒におられるで」
ドロドロと蜂蜜みたいな甘言が心に絡みつく。ねっとりと脳に染み渡って行って、また「普通」の感覚が麻痺する。
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ぴーなつ(プロフ) - ゆーり。さん» ゾクゾク感を感じていただけたのであれば幸いです( ˘ω˘ )!嬉しいコメントありがとうございます! (2020年4月11日 11時) (レス) id: 9ab381c422 (このIDを非表示/違反報告)
ゆーり。 - 読めば読むにつれて鳥肌が止まらず。。。ほんとにめちゃくちゃゾッとしました。でもそれ以上に言い表せない高鳴りが!!!面白かったです!!!! (2020年4月11日 9時) (レス) id: 56b835e328 (このIDを非表示/違反報告)
ぴーなつ(プロフ) - (名前)さん» この作品で1番の黒幕と言いますか、操り糸を自在に動かしていたのは治だった、という事実をインパクトをもってお伝えしたかったので、そのようにコメントいただき嬉しいです( ; ; )!ありがとうございます (2020年4月9日 21時) (レス) id: 9ab381c422 (このIDを非表示/違反報告)
(名前)(プロフ) - めちゃくちゃ良くてびびりました!!特に最後の二ページに鳥肌が止まらないです!夢主はちゃんと恋になったけど治は戀...。予想していない展開でした、とにかく最高です!!! (2020年4月6日 2時) (レス) id: 678e1d11d1 (このIDを非表示/違反報告)
ぴーなつ(プロフ) - こはるさん» こははははははる!!!ちょっと自分でもびっくりするくらいドロついて収集つかなくなりそうになりながら無事終わらせました( ˘ω˘ )! ありがとう! 侑はドロドロがとんでもなく書きやすい!!笑 (2019年10月18日 23時) (レス) id: 9ab381c422 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぴーなつ | 作成日時:2019年9月18日 22時