綺麗な花に棘がある。【茅ヶ崎至】 (ページ34)

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『えっと、弓原Aです。』

「Aは、私の高校の時の同級生なんですよ！」

「へ～～！何の仕事してるの？」

『普通のOLですよ。』

やっぱり苦手だ。定時で帰れる日はなるべく早く家に帰って録画をした番組を見ながらお酒を飲む。これが理想の夜の過ごし方なのに。なんで私はこんなところにいるのだろうか。

高校時代の友人、美咲以外の子とは初対面だし、相手の男達も特にパッとするような人はいない。(失礼だけど)隣いる美咲が楽しそうならいいんだけど……。早く帰りたい。

「じゃあ、とりあえず席替えしよっか！」

誰かのその提案に、座っている場所が入れ替わる。美咲は最初から狙っている人がいたのか、迷うことなく一人の男の人の隣へ真っ先に向かっていった。さすが肉食系。なんで彼氏いないんだろう、美咲。

「隣いい？」

『あ…はい。えーーっ…と。』

「名前もう忘れちゃった？榎本です。」

『すみません、人の名前覚えるの苦手で…』

へらりと笑って、誰かさんのお決まりのセリフを言う。「榎本さん」も、そっか～と機嫌がよさそうに笑っていてホッとした。

榎本さんは、私と同じ商社マンらしく、会社の名前を聞くと、うちの会社とも取り引きをしている会社だった。こんな偶然あるんだと思いながらも、優しそうな雰囲気の榎本さんとは不思議と話してて嫌だなと思うことはなく、自然と楽しくお酒が進んだ。

「じゃあ、もしかしたら俺たち会ったことあるかもね。」

『ですね。びっくりです！』

「よかったら、俺の名刺もらってよ。」

『あ、ありがとうございます。…じゃあ、私のも。』

「ありがと。」

笑った顔が優しそうで、胸があったかくなる。私の周りにいる男とは全然違うな、と頭に浮かんだのは、茅ヶ崎さんの顔だった。…まぁ、あの人は人種が違うというか。次元が違うというか。

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