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化野 ページ32

 
 
 靄が散じる。
 霧が晴れる。
 霞が、消え去っていく。

 クリアになった頭に、あの日から鈍くなっていた五感の何もかもが雪崩れ込む。研ぎ澄まされる。血管に沸騰した血が流れ、脈が高まる。
 時透無一郎は記憶を取り戻す。

 刀を握った手が震えた。
 あの人に会いたい、と思った。

 剣を握って一年。しかしその才と努力からすでに柱となっていた時透を、あの人は──Aは、容赦なく打ち負かした。
 バカになった頭では何を感じることもなかった。
 それが今になって、こんなときに、掻きむしりたいほど悔しいのである。あんな風に負けたままで。カッコ悪いところだけ見せてそのままなんて、冗談じゃないと。

 14歳の青い恋心が叫んでいるのである。


『お前は正しい』

 地面にブッ倒れた時透を助け起こそうともせず、あの人はそう言った。
 今思うとたぶん、それが嬉しかった。

 あのとき時透がほしかったものは、慰めでも優しさでも手助けでもない。まして守ってほしかったはずがない。
 ただ信じてほしかったのだ。
 無意識にこびりつく無力感と、怒りと、それさえ満足に覚えてはいられない頭と。こんな自分でも大丈夫だって、背中を押してほしかった。

『頭で無理だというなら体に叩き込めばいい。実に論理的だ。寝ていようが倒れようが死の淵だろうが、腕と刀さえあれば動けるように。そこまですれば頭なぞはそのうち後からついてくる』

 あの人にとって、記憶喪失なんて他人事だ。寄り添ってはくれなかった。蹴っ飛ばされてひっ叩かれて走らされた。

 才能がある、と言ってくれた。
 悩む時間がもったいないと。お前は若く、才があり、そしてそれは決して剣技のみに言えるものではない。努力をする才能だ。やればやるだけ強くなる、典型的な原石だ、と。

『道筋なんて覚えていなくても、まあ振り返ったときに足跡が見えるだろ。今はとにかく前へ進め』

 だから、この体が、覚えていた。


『私ほどにはなれなかろうが』


 その言葉が、思い出すだに震えるくらい悔しかったんだ。
 ぼんやりした頭でも思った。きっと撤回させてやると決意して、毎日、毎日毎日努力した。時透はこんなに強くなった。上弦の伍だって倒せる。


 ──ねえ、四月一日さん。

 発破をかけてくれた? それとも、本心だった?
 どっちでもいい。結果は変わらない。
 こんなに強くなったのに、あなたに届く気がしないんだ。
 悔しくて堪らないんだ。

 会って、声が聞きたい。
 何が足りないのか教えてほしい。

 あなたに会いたい……


 


「マ、なんて熱烈なんでしょ。弟として見過ごせませんねえ」

誰そ彼→←ゝ



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アホ毛50%(プロフ) - 玲さん» マジで有難いです……やる気出ます……がんばります……(ToT) (2022年10月7日 20時) (レス) id: a42aa73c2c (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - どうかお身体にはお気をつけてご無理はせずに更新、活動していただけましたらと思います……!ゆっくりのんびり待っております。想像以上に長くなってしまいすみません……!!長文乱文等失礼しました。応援しております……! (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 喉からどこかの鳥の声でも発してしまいそうでした。続編……書いてくださる…………?夢でも見ているようです。この幸せを沼鬼に負けないくらいの気持ちと勢いを持ってギリギリ噛み締めます。(?)(申し訳ありません次で終わります) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - もう超大好き!!!となっていたというか今も勿論のことなっています書いてくださりありがとうございます。 そうして今もまた読み直していたら、文章が変わっている……!?と気付き更新日時を確認しましてア゜〜〜!!!と大歓喜のあまり(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - コメント失礼致します。何回も何回も読み直し、そのたびこの作品は本当に面白いなあ、と思い、読了すると大きすぎる満足感と言い表し難いほどの感動が一気に込み上げてきまして、その感覚は頻繁に感じるものではなかったものですから、本当にこの作品はもう……(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アホ毛50% | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年10月29日 0時

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