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乱れ波 ページ2

 
 
 産屋敷邸にて。

 緊急の柱合会議、と、言われると。嫌が応でもあのときのことを思い出す。忘れもしない。忘れたいと思っても、あの悲しみから逃れられない。
 場の空気は重かった。
 九人揃った当代の柱たちは、言葉を忘れたみたいに黙っている。甘露寺でさえそうだった。これは傷を隠すような沈黙である。宇髄などはそういう態度を情けないとでもいうように、居たたまれなさそうに目を伏せている。

 ああ、と誰もが思う。
 あの喪失と向き合う方法を、まだ誰も見つけられていないのだなと理解する。

 こんな風だったな、と思ってしまうのだった。

 二年前。
 ノンキに集まって、お館様の表情が強張っていることに気づいて心配したりして。あの人が鬼殺隊をやめたと……そう言われて。突然のことだ。他ならぬお館様のお言葉だというのに、ひとりだって返事もロクにできやしなかった。……

 耀哉が入室する。パッと火を消すような切り替えは流石といったところであろうか。全員敬愛を肌に滲ませて頭を垂れる。今日の挨拶は伊黒だった。
 そのあと当たり障りのない挨拶やらを終えて、耀哉の顔色は普段よりずっと良かった。だからみんな少しずつ安堵する。少なくとも、凶報ではないらしいと知る。

「そろそろ本題に入ろうか」

 入っておいで、という声に応えて、襖が開かれた。
 そこで三つ指をついた女が頭を下げている。

 はて、彼女はいったい───

「不肖、四月一日A」


 ……空気が凍る。

「前線を退いた身ではございますが、……このような(わたくし)でもお役に立てるのでしたら喜んで。罷り越してございます」

 やわらかな声だった。
 女の口ぶりだ。
 こんな風に話すひとではなかった。
 しかし確かに、あの声だ。

 あのひとの名前だ!

 苛烈な女だった。稽古をつけてほしいと頼み込み、今思い出してもドン引きするくらいボコボコにされた。加減は上手いが妥協を知らない女だ。剣士だった。その身一つに刀を握り、血風に身をさらし、戦場を駆ける偉大な柱だった──

『私は貴様を過大評価していたのか?それとも指示が聞こえなかったのか?聞こえぬ耳なら切り落とすが良かろうよ』
『素人のような構えだな。ああ、いや……気取っていない分素人の方がマシだ』
『てんで呼吸がなっていない。肺に穴でも空いているのなら剣ではなく金でも握って医者にかかれ』

 ……いやクソ怖い人だっただけかもしれねェな。
 

ゝ→←眩きは残像



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アホ毛50%(プロフ) - 玲さん» マジで有難いです……やる気出ます……がんばります……(ToT) (2022年10月7日 20時) (レス) id: a42aa73c2c (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - どうかお身体にはお気をつけてご無理はせずに更新、活動していただけましたらと思います……!ゆっくりのんびり待っております。想像以上に長くなってしまいすみません……!!長文乱文等失礼しました。応援しております……! (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 喉からどこかの鳥の声でも発してしまいそうでした。続編……書いてくださる…………?夢でも見ているようです。この幸せを沼鬼に負けないくらいの気持ちと勢いを持ってギリギリ噛み締めます。(?)(申し訳ありません次で終わります) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - もう超大好き!!!となっていたというか今も勿論のことなっています書いてくださりありがとうございます。 そうして今もまた読み直していたら、文章が変わっている……!?と気付き更新日時を確認しましてア゜〜〜!!!と大歓喜のあまり(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - コメント失礼致します。何回も何回も読み直し、そのたびこの作品は本当に面白いなあ、と思い、読了すると大きすぎる満足感と言い表し難いほどの感動が一気に込み上げてきまして、その感覚は頻繁に感じるものではなかったものですから、本当にこの作品はもう……(続) (2022年10月7日 16時) (レス) @page45 id: 94771a4103 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アホ毛50% | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年10月29日 0時

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