9滴 ページ10
tukinaga side
｢A！うっちゅ〜！｣
池に向かってそう言うが今日も返事はなかった。それは一週間くらい続いていて、Aは姿を現さない。
｢やっぱりいないのかぁ……｣
そんなおれの声が空に響く。
今日もアイツはいない。そうあの綺麗な人魚はいないのだ。
アイツは声が綺麗だった。ソプラノみたいな声で歌う歌はとっても惹き付けられた。
アイツは目も綺麗だった。無垢で穢れたものを知らない、純粋で幼い子供のような瞳。
アイツは笑う顔も綺麗だった。弾けたような笑顔でこっちに来てニコニコとずっと笑っていて凄く綺麗だった。
アイツは泳ぐ姿も綺麗だった。楽しそうに嬉しそうに、だけどどこか美しかった。そんな姿を見てると曲もいっぱい作れた。
そんなアイツがいない池はどこか寂しかった。
｢なぁ！Aこれ！｣
いつものように出来上がった曲を見せてもあの眩しい笑顔はなくて
｢あいたい｣
ふと、そんな言葉が零れる。けれど、その言葉に返事はなかった。いつもは返ってくる
『レオは寂しがり屋さんだなぁ』
『ここにいるよ？』
アイツの言葉はない。
｢う〜！
アイツがいないからなのか、全くと言っていいほど
ずっと頭に笑顔を向けるアイツの顔があるからだろう。
｢また姿を見せてくれよっ……｣
消え入りそうな声で呟いた言葉は誰も返してはくれない。返してくれないはずなのに
『うん、いいよ』
と、ソプラノの様な優しく綺麗な声がおれの言葉に応えた。おれは聞こえきた池に急いで駆け寄ると
『レオ、久しぶり』
いつかのような笑顔でおれに笑いかける子供のAがいた。
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作者名：ぽぽ | 作成日時：2021年1月30日 12時
