【WT】硝子の靴は捨てた (ページ30)

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木崎と迅が防衛任務から帰ってくると蓮月が陽太郎と一緒にソファーで眠っていた。食卓の上で蓮月の参考書が散らばって、ソファーの下には『シンデレラ』の絵本が落ちている。状況から見て、リビングで受験勉強していた蓮月に陽太郎が絵本を読んでくれと頼んだのだろう。

「ここで寝たら風邪引くだろ」

木崎は二人に呆れながらも表情はとても穏やかであった。「俺は陽太郎を部屋まで運ぶからお前はAを部屋まで運んでくれ」と起こさないように、木崎は陽太郎を抱えてリビングから立ち去る。迅も蓮月を起こさないように抱きかかえて蓮月の部屋に向かう。

「じんくん……？」

ベットに下ろすと、蓮月は薄らと目を開き名前を呼ぶ。

「ごめん起こした？」
「んーん……」

蓮月は眠たそうな目で身体を起こして迅に抱きつく。突然の事に迅は吃驚するも、小さい子を寝かすようにに蓮月の背中を優しく叩いた。

「迅くんは、わたしの王子さまかなぁ」
「なにそれ」
「さっきね、陽太郎にシンデレラ読んだの。シンデレラの王子さまはシンデレラを幸せにするんだよ。周りの人を犠牲にしてね」

顔を上げた蓮月はふにゃりと微笑っていた。悪意のない純粋な笑みに背筋が凍る。

「そんなハッピーエンドなら、私は硝子の靴なんかいらないや」

▼▽▼

A級に上がって初めての遠征だ。
吐くほど太刀川と訓練もしたし死ぬ覚悟もある。2回。自分の顔を叩いて出水は意気込んで遠征邸の前で待機していると、太刀川と一人の女がやって来た。

「太刀川、A遅いぞ」
「ごめんごめん風間さん。迅がなかなかAを離さないから手こずった」
「そーそー。風間さん、太刀川さんは今回悪くないから許して。怒るなら迅くんで」

太刀川たちと仲良く喋っている女は見たことあった。姉がよく読んでいる雑誌に載っている。確か名前は美雨だったはず。まさかボーダー隊員だったとは。姉が知ったら喜んで発狂するだろうな。

「よーし全員揃ったな。中に入れー」

揃ったことを確認し、冬島が指示を出すと遠征邸の中へ皆が乗っていく。出水も遠征邸の中に入り、空いてる席に座ると隣に先程の女が「隣いい？」と。

「あっ、どうぞ」
「ありがと」

女は軽く頭を下げて隣に座る。鞄から単語帳を取り出して女は勉強をし始めた。こんな所まで勉強すんだ、と物珍しそうに横目で見ていると気付かれたのか。女は出水の方へ向いた。

「なに？」
「い、いや。何にも」