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『んもー！また子ども扱い！話逸らさないで』
「してないってば。子ども扱いしてたらこんなことしないだろ？」
プンプンと効果音をつけたくなるほど可愛く怒るAを、後ろから抱きしめた。
女の子特有の柔らかな抱き心地を、身体全体で感じ
微かなシャンプーや、ボディーソープか何かの甘い香りを鼻腔から体内に取り入れるよう、Aの首筋に顔を埋めた。
「好きだよ」
『……ん』
「Aもちゃんと言って？」
『……好き』
「ん。ごめん。意地悪して言わなかったわけじゃないよ」
『分かってる。私に気遣ってくれたことくらい。でも寂しかったの。翔さんがどんどん遠くに行っちゃう気がして……最近は特にそう思っちゃって』
「どこへも行かないよ、Aを大切に思ってるから」
そしたら今度は、Aが俺の方に向いて顔を胸に埋めてきたから
優しくサラサラの髪を梳かしながら、頭を撫でてやる。
『……私、翔さんの邪魔になってない？』
「何言ってんだよ。そんなわけないだろ」
『本当に本当？』
「ほんと。嘘つくとこじゃない」
『じゃあキスしてください』
「キスだけですか？(笑)」
『……キス以外のことはまた後で』
「りょーかい」
Aが大学4年、俺が24になる年の夏。
少しずつ、少しずつお互いの気持ちに歯車が狂い始めてることに、気付けなかった。
年々温暖化、ヒートアイランド現象のせいで、都内はかんかん照り。
何もしていないのに、汗が滝のように流れる。
汗かきな俺は特に。
『ねぇ、翔さん』
「んー？」
今日はAの部屋で寛ぎ中。
滅多にこの部屋には来ないんだが、なんせ就活が終わらないAとの時間が取れなさ過ぎて
会えないのが我慢できずに、俺がこっちにやってきた次第だ。
こうでもしないと、数週間、月単位で会えなくなるのが目に見えてるから。
汗かきの俺とは対照的に、Aは寒がりだから、室温は少し高め。
なのに、俺たちは小さなソファーに肩を寄せ合うように座ってるおかげで
触れているところはもちろん、身体中にじんわりと汗をかいた。
『10月からキャスターですねぇ』
「観ろよ？遅い時間だけど」
『観ません』
「何で？」
『キャスターしてる翔さんは、私だけの翔さんじゃないから観ない。観たら会いたくなる』
「ふは。何だよその理由。ちょー可愛いじゃん(笑)」
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作者名：鈴
| 作成日時：2020年1月21日 13時
