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週末の昼下がり。
待ち合わせ場所の駅前で、胸の鼓動を必死で抑えていた。
――おかしいな……初デートとちゃうのに。
何回Aと歩いたと思ってんねん俺。
それでも、胸の奥はどうしようもなくそわそわする。
まるで“初めて恋をした頃”の自分に戻ったみたいだった。
そんなとき、柔らかな声が聞こえる。
「雄大さん?」
振り向くと、Aが立っていた。
春めいた薄いワンピースに、淡い桜色のカーディガン。
どこか控えめだけれど、彼女らしい優しい雰囲気をまとって。
「……うん。来てくれて、ありがとうな」
照れと緊張を含んだ微笑み。
「どこに行くんですか?」
「えっとな……無理せん程度に、散歩して、お茶して……Aの好きそうなん、見つけられたらええなって」
「ふふ、優しいですね」
そう言ってAが微笑むと、胸がきゅっと痛くなる。
並んで歩き出すと、Aは小さく息を吸った。
「なんだか、不思議なんです。
こうして一緒にお出かけするの、今日が初めてのはずなのに……どこか安心するというか」
雄大の足が少しだけ止まる。
Aは慌てて首を振った。
「あ、変な意味じゃなくて。
なんだか、あたたかい感じがするんです」
その言葉は、胸の奥の一番弱いところに触れた。
「……ありがとう。
そんなん言われたら、俺、泣きそうになるで」
「えっ……!」
「いや、嬉しいってことや。
俺、Aが笑っててくれたらそれでええねん」
頬が、ふわりと赤く染まった。
その後、2人で小さな雑貨屋で可愛いものを見つけたり、
カフェでおすすめのスイーツを分け合ったり、
些細なことに何度も目を合わせて微笑んだ。
デートらしい会話なんて、ほとんどしていない。
それでも、
――ああ、やっぱり好きや
――雄大さんの隣、心が落ち着く……どうしてだろう
ふたりの心は、すれ違いながら、ゆっくりと近づいていた。
帰り道。
並んで歩く距離が、いつの間にか自然に近い距離になっていて、気づかれないように息を飲む。
「……また、行こな。今日みたいなん」
Aは小さく微笑み、うなずいた。
「はい。私も……また歩きたいです」
その言葉は、まるで風に揺れる桜の花びらみたいにやさしく胸にそっと落ちた。
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作者名:鈴芽 | 作成日時:2025年11月18日 20時


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