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その瞬間だった。
視界がふっと白く揺らいだ。
廊下の木目がにじみ、Aの輪郭がぼやける。
――また……!?
瞬きを繰り返す。
でも、消えていく。
すぐ隣にいるはずのAが、
まるで霧の中にいるみたいに遠くなっていく。
Aは気づかず、安心したように微笑んでいた。
「大夢くん……ありがとう。
そばにいてくれて」
その笑顔が、胸に深く刻まれる。
――あぁ、もうすぐなんだ
初めて、はっきりとわかった。
僕は、この時代から消える。
元の場所に引き戻される。
恐ろしさと、悔しさと、
そしてなにより——
――Aを、置いていくなんて
息が苦しくなる。
「大夢くん?……大丈夫?」
Aの声が、遠くから聞こえるように小さく揺れた。
「……大丈夫、です。
ごめん、少し……」
そう言おうとした瞬間——
また視界が弾けた。
まるで“向こう側”に引っ張られるような感覚。
――ほんとは、もっと一緒にいたいのに
心の中で泣き叫ぶ。
けれど、それを言えば、彼女は自分を責めてしまうだろう。
だから、大夢は静かに呼吸を整えて、
何事もなかったように笑った。
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その夜——
大夢は廊下でAと並んだまま、
視界が何度もふっと揺らぐのを感じていた。
白い光は、回数を増すごとに強くなる。
まるで向こうの世界が「帰ってこい」と呼んでいるみたいに。
――やっぱり、近いんだ
怖かった。
他の何よりも、
Aを残して消えてしまうことが。
でも、大夢の表情からすべてを読み取ったAは、そっと唇を噛みしめて言った。
「ねぇ、大夢くん……
もしかして、元いたところに……
帰らなきゃいけないの?」
その声音は、震えているのに不思議なほど真っ直ぐだった。
胸が痛くて、言葉を紡げなかった。
「……ごめん。
本当は、言いたくなかった」
「ううん。言ってくれて、ありがとう」
Aは涙を浮かべながら、笑った。
「大夢くんを……苦しませたくないから」
その笑顔に、胸の奥が崩れ落ちていく。
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作者名:鈴芽 | 作成日時:2025年11月18日 20時


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