思い出 ページ19
運が良いのか、一度も彼等の姿を見る事無く階段に辿り着いてしまった。
こんな簡単にゴールしてしまって良いのだろうか?
もうこの階段駆け降りて広間突っ切ったら外だぞ?
......わざわざ引き留めておく価値など、私には無いがな。
自惚れていた自分を嘲笑したくなったが、今そんな事をしている暇は無い。
ワンピースのスカートをたくし上げ、赤い絨毯が敷かれた階段を全速力で駆け降りる。
降りる途中で何人か兵士らしき人物と目が合ったが、まあ大丈夫だろう。
風を切り、転けないように足を動かし続けて数十秒。何の問題も無く1階に着いてしまった。
彼等は何をしたかったんだ?拷問目的なら、牢獄にでも閉じ込めておけば良かったのに。
.....だが、会えて良かった。彼等が私を嫌っていても、私は彼等の事が好きだからな。
少し寂しくなりながらも廊下を歩き、大きな扉を開けて大広間に出る。
豪華絢爛なシャンデリアが眩しい、大理石が敷き詰められたこの広間。
中央奥に鎮座する、大っ嫌いだった玉座。
嗚呼
そうだ。
ここで.....ここで私は........
ここで私は、女王になったのだ。
あの日の事は、まるで昨日のように覚えている。
国民の反乱によって父上が殺され、状況を理解する間もなく、その場を治める為だけに、父上の側近によって女王に即位させられたあの日。
誰も齢15の小娘に期待などせず、罵詈雑言の嵐だった。
「そんな奴に何が出来る」
「どうせ前王と同じだ」
「先代と同じ血が流れてるんだぞ?」
「あの髪。前の王と一緒で気味が悪いな」
「今まで公に姿を出さなかった奴が新王?」
「どうせ貴族の操り人形だろ」
私を産む時に母上が亡くなり、唯一の家族だった父上を失った上に、そんな心無い国民からの言葉。
情けなくも心が折れかけていた弱い私を側で支え、守ってくれたのが、彼等だった。
『.....懐かしいな』
誰もいないし、最後にもう1度だけ.......と、彼等と踊った事もある大広間の中央を堂々と歩いていた時。
「ほんまに。懐かしいなぁ?A」
よく通る声と共に、背後から橙色の袖が私の腰に巻き付いた。
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とうみん(プロフ) - あなたの作品は情景描写がとても綺麗で、つい作品の世界観にのめり込んでしまいました。有名な小説家にも文才などありません。何度も何度も書き直してやっと傑作が生まれるのです。偉そうなことを言ってすみません。とてもおもしろかったです。ありがとうございました。 (9月3日 18時) (レス) @page36 id: a126db2d2e (このIDを非表示/違反報告)
るる - 読んでいてとても面白かったですよありがとうございます (2022年12月25日 16時) (レス) @page36 id: a2a90b5064 (このIDを非表示/違反報告)
ヒメル(プロフ) - またいつか、続きを書く気持ちが湧いたならどれだけ時が経っていようとも、遠慮せず作品をまた更新してください。どうか、貴方様の作品を心の底から待っている人がいることを忘れないでください。本当にありがとうございました。コメント2つもしてすいません! (2022年8月17日 12時) (レス) id: 803f58ab86 (このIDを非表示/違反報告)
ヒメル(プロフ) - 打ち切りの言葉にはショックを受けましたが、読んでいるだけの私には分からない作者様だけの事情もあると理解しました。面白く、読みがいのある作品をどうもありがとうございました。 (2022年8月17日 12時) (レス) @page36 id: 803f58ab86 (このIDを非表示/違反報告)
Ajisaaaai(プロフ) - 素敵な作品をありがとうございました (2020年12月3日 8時) (レス) id: 4585525dae (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:クレア | 作成日時:2019年10月26日 16時