とおくに行った、夏【宇髄天元】

#夏end ページ7

.



蝉の耳障りな音が聞こえてくる。

街の煩さに、ただでさえ暑いのに。これ以上なにの最悪を合わせようと言うのだ。


「…で、もう1人のあの女の子が人を殺して？家出を？」
「あぁ」
「…それはおかしい」


あの大人、警察官に捕まえられたあの後。
事情を説明させられて、その内容でひとつ止まっている所があった。


「橘Aの周りで、人は誰も死んでない」


その事実が、とても不思議だった。
何故お前はそんなことを言ったのだろうか。

お前のスマホから「つぶやいったー」と言うアプリで最近の1つの呟きを見た。



「人の心を壊した私は、人殺しかな」



お前はどんなことをして、誰かの心を壊したのだろうか。


…その前の呟きで他人の悪口を言っているものを見つけた。たったそれだけで、お前は死んだのか。


悪口なんて、今の日本じゃありとあらゆるところに溢れているだろう。


しかもその悪口は、当人たちじゃない俺からも正しいことのように思えた。




ただ、その悪口を言われていた人は、何も言うことの出来ず聞いてもらえずに消えた。





そんなことを言ったら、人殺しなんてそこら中に湧いているじゃないか。

お前が死ぬ必要など、無かったんじゃないか。




何度も思ったその言葉に酔いそうになる。


酔いそうになりながら、今日酒を持って、俺はあの崖に行っている。



「なぁ、俺はお前の言う大人になれたかな」



あの日からちょうど10年。
俺だけが24歳になってお前は15歳のまま。


溢れる涙は全て酒の所作にして。
俺は海に入り、海になったお前にキスをした。








end.

#夏のあとがき→←#夏5

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す