苦渋の決断 ページ7
side 橙
俺の手を掴んだお母さんの手は弱々しく震えていた。
その手を振り払って走り出すことも出来たけど、きっと振り返ったお母さんの顔は今にも泣きだしそうに歪んどって、できなかった。
「――ごめんなさい、丸山さん……」
お母さんは俺の手を離し、そのままその手で自らの顔を覆った。
「――記憶障害は、そう簡単に記憶が戻るわけじゃない…
無理に思い出させようとするのは、あの子にとってとっても負担なことです……
今はまだ、あの子は自分の恋人の記憶を失っていることを知らない、だから…ッ」
俺の中でその言葉は、スロー再生されているかのように感じた。
そして、咀嚼して呑み込むのに、随分と時間がかかった。
いや、そん時も、1年経っても多分、呑み込めてはいないんやろうな。
「――あの子のことは、もう、諦めてください……」
だってさ、おかしいやん。
Aは忘れてるかもしれんけど、俺ははっきりくっきり覚えてるんやで？
出会った経緯とか、付き合った経緯とか。
Aに作ってもらった料理とか、お互いのクリスマスプレゼントとか。
数少ないデートの場所とか。
全部、全部。
何で、俺が、俺だけが忘れられて、
何で俺だけが、苦しい我慢をせなあかんの？
何で身を引かなあかんの？
「――Aはね、小さい頃からずうっと、将来は結婚して幸せな家庭を築くんだって、素敵な旦那さんと幸せになるんだって、ずっと言っていました。
私も母親として、Aには素敵な結婚をしてほしい。
勿論、その相手が丸山さんで万々歳だった。
――でも、Aがあなたの記憶を失った今、あなたのことをAに思い出させようと負担を強いるのも、辛い気持ちにさせるのも、嫌なんです……
だから、丸山さんはもう、Aに近付かないで……
新しい人を見つけて、丸山さんは丸山さんで、幸せになってください……」
お母さんにとって、苦渋の選択やったことは理解しているつもり。
会ってないけど、お父さんもきっと、お母さんと相当話し合ったんやろう。
だけど、お母さんの胸ぐらを掴みかけたのをギリギリのとこで耐えるくらい、俺は苛立って、でも娘を思う両親の気持ちを否定できなくて。
病院からの帰り道、行き場のない苛立ちとショックを叩きつけるように、ブロック塀を殴った。
体の水分を全部出し切る勢いで、情けなく泣いた。
――こうして、俺とAは終わった。
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渡璃凛(プロフ) - ○○さん» 長らく返信しておらずすみません;;; よろしければ引き続きよろしくお願いします。 (2021年5月7日 10時) (
レス) id: 800f7c5fac (このIDを非表示/違反報告)
○○(プロフ) - うぅ苦しい辛い…泣。けどめちゃくちゃ展開がまた楽しみになりました！はあああ丸うううう泣 (2021年1月25日 20時) (レス) id: 155ff908a4 (このIDを非表示/違反報告)
渡璃凛(プロフ) - コメントありがとうございます。恐れ多いお褒めの言葉をたくさんいただいて嬉しいですしこれからもお付き合い頂きたいですしおすし(笑) 若干亀更新ですがよろしくお願いします。 (2021年1月25日 10時) (レス) id: 800f7c5fac (このIDを非表示/違反報告)
○○(プロフ) - 内容もありきたりじゃないし、読みやすいし聞き手側に想像しやすい表現ですし！変な関西弁じゃないですし！自然な感じで内容も面白くて急展開になってきてて面白いですね！(いやおすしって言わないんかーーーーーーい自分) あ、おすし← 次のページも楽しみにしてます！ (2021年1月25日 3時) (レス) id: 155ff908a4 (このIDを非表示/違反報告)
○○(プロフ) - 面白いですね！ (2021年1月25日 3時) (レス) id: 155ff908a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：渡璃凛 | 作成日時：2021年1月6日 14時
