たとえ向いてる方向が違っても【緑】

38 ページ38

「はー、疲れた……」



忠義が作ってくれた唐揚げやら餃子やらを囲んだ騒がしい…いや、楽しいご飯会を終え、安田さん、もといヤスくんは颯爽と去って行った。(ヤスくんに安田さん呼びを変えさせられた)


忠義宅に取り残されたあたし達は、まったりとソファに腰かけた。




「安心したぁ？」


忠義がちらりとこちらに視線をやりながら言った。

そう、今日ヤスくんが来たのは、他でもないあたしの疑念を晴らすためだったらしい。


「うん、あたしより可愛らしいけど、やっぱりアイドルだった。芸能界に疎いからあまり知らなかったけど」


「ヤスに惚れるとか勘弁やで〜」


恨めしそうな声を発しながら、忠義の長い腕があたしの腰に絡みついてくる。






未だに現実味はないけれど、一応忠義の彼女というポジションは獲得して。

それで何が変わったかと言えば、特に大きく変わったことはない。



忠義は相変わらず突然あたしの家に押しかけるし、突然あたしを家に呼びつける。

一緒にご飯を食べて、酒を飲んで、くだらない話してバカ騒ぎする。

そしてベロベロになった忠義を介抱する。




変わったことと言えば、二人で会う時間に少しの甘さが加味されたくらいのことだろう。




キーケースに自分の家の鍵と仲良く並んだ合鍵とか。

当然のようにキッチンに立つその後ろ姿とか。

さりげなく腰に添えられる腕の体温とか。

同じベッドに身を寄せた時の安心感とか。


何気ないけど、そういうのが全部、
幸せで、愛おしいのだ。




これからも、色んな場面で微妙なすれ違いが起きるのだと思うし。

嫉妬も、勘違いも、不安も、嫌悪も、

付き合う上では切り離せない感情だから、きっと喧嘩だって免れられない。

もしかしたら、微妙なすれ違いから、一緒にいられなくなる日が来るかもしれない。







それでも。







たった一つ、


"好き"


この感情だけでも通じていれば、


今はとりあえずいいんじゃないかって思える。






たとえ向いてる方向が違っても。






Fin.

御礼とお知らせ→←37

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す