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「どした〜ん、ぼけっとして。
まだきつい?」
心配そうな顔で、熱は大分下がっとるみたいやけどな〜なんて言いながらあたしの額を手で押さえるものだから、やっぱりドキッとしてしまう。
食卓に並べられたのはうどんで、あたしの体調を考慮してくれたらしいことが窺える。
「ほら、たんと食え!いただきまーす」
食え、と言いながら自分の方が先にさっさとうどんにがっついて、鼻に汁入ってもうた!と顔を歪めて鼻を抑えるのが面白くて、思わず笑ってしまった。
「笑わんと、早よ食い?」
ありがたくうどんを啜ると、うどんの温かさが身体中に広がって、じんとする。
そんなあたしを、忠義が優しい目で見つめていた。
見納め?食べ納め?
存分に味わっておこう。
未だ心臓はバクバク鳴っていて、痛いくらい。
「……そうや、今日な、ヨシコがまた髪の毛染め直してきとって、偉い派手な髪型しとったで。
Aは、今茶髪やけど、染め直しとか大変やない?」
――この状況で、
あたしの気持ちを知ってもなお、
その話をするか……
気を遣うとか、そういうの、何もないのか?
「A?」
既に後がなかったからか、どうせ振られるからと達観していたからか、あたしは半ばヤケクソ気味になっていたらしく。
もう、何かどうでもいいや、って思った。
「――ヨシコの話ばっかり…
もう、ウンザリだよ…!」
往生際が悪い上に、重い女だ、あたし。
だけど一度零れてしまった言葉も、感情も、もう引っ込めることはできなくなった。
「あたしのこと好きになってくれないなら、こうやって優しくしないで…
期待させないでよ、嫉妬させないでよ、」
こんなことを言ったって、忠義は困るだけなのに。
でも、答えを聞く前に忠義の口から"ヨシコ"の名前が出てきたら、もう耐えられない。
うどんを啜っていた忠義は、ふっと目に悲しげな色を浮かべて箸を置いた。
「これ食べ終わってから、話しよう思たんやけど…」
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渡璃凛(プロフ) - 雨さん» 細かいところは私のこだわりというかスタイルなので気にしないで頂きたいです。イモるというのは物怖じするとかビビるという意味です。続編は今のところ考えていませんがまたいつか機会があれば書かせていただきます。 (2021年3月1日 13時) (レス) id: ca2c84b988 (このIDを非表示/違反報告)
雨 - 何度も続けてのコメントですみません。 続きがあるなら39からとかでも良かったのでは?と 思ってしまって。。。 何かすみません(>_<) (2021年3月1日 1時) (レス) id: 4332e38eb8 (このIDを非表示/違反報告)
雨 - またまた続けてのコメントですみません...。 最後に一つだけ気になったことがあるのですが。。。 物語38の後にお礼とお知らせ■作者よりの後も物語は 続きますが...。 何故そこでは物語の各題名に数字とか何も無く・だけ なんでしょうか? (2021年3月1日 1時) (レス) id: 4332e38eb8 (このIDを非表示/違反報告)
雨 - また続けてのコメントですみません。。。 物語読みました。 物語は完結してしまいましたが...。 その後の2人が気になります。 (2021年3月1日 1時) (レス) id: 4332e38eb8 (このIDを非表示/違反報告)
雨 - 続けてのコメントですみません(>_<) 物語読んでいて一つお聞きしたいことがあるのですが...。 ・ページ47のここの部分 自分で探そうにもいざ会ったら絶対イモるやろうから〜 この絶対イモるやろうから〜のイモるとはどういう意味なんでしょうか? (2021年3月1日 0時) (レス) id: 4332e38eb8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:渡璃凛 | 作成日時:2020年10月8日 17時