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「坂田王子」
「…母上、何かご用ですか?」
稽古が終わり、森へと逃げた姫を追うため支度をしようとすると、母上に呼び止められた。
白基調のドレスや装飾を身に着けているくせに、顔には黒基調の悪趣味なメイク。実の母であろうと、さすがに嫌悪感をいだいてしまう。
「そんな荷物を抱えて…こんな時間にどこへ行く気なのです」
「…少し、城下町に_」
「_嘘おっしゃい」
いつもは穏やかな声を大きくし、ぴしゃりと言い放つ母上。
…やっぱり、姫の言ってた通りなんか…?母上が、姫のことを…。
「あのこは、じきに森の中で死体となって見つかるわ。あなたはここで待っていたらそれでいいのよ。あなたは、何も知らなかった」
「…し、たい…?」
「ええ、そうよ」
嘘はったりにも見えなかった。
母上は自信満々な笑みを薄く浮かべ、この場を去っていった。
どく、どくと心臓が激しく鼓動する。脳が思考を手放す。瞼の裏に、ゆっくりと倒れていく彼女の姿が映し出される。
もしかしたら、彼女は今にも鋭い刃物で刺されかけているかもしれない。雪のように白い肌から、熟した林檎のように赤い血を垂れ流しているかもしれない。
…行かないと。行かんと、あかん。助けないと、俺は…俺は王子さまやんか。
苦手な馬に乗り、森へと一直線で向かう。
枝や葉で頬を切られようが、高そうな服が汚れようが、速度を落とすなんて思考は一ミリも頭に浮かばなかった。
早く、一秒でも早く、彼女のもとに。
「…あ、」
少し開けて太陽の光が差し込むそこに、ひとりの女性がいた。
雪のように肌が白く、血のように赤い頬。風に靡く髪は夜空のような深い黒。
───姫。
声をかけようと口を開いたその時、強い風が吹き思わず目を閉じる。
少しして、目を開くと、そこには崩れ落ちる彼女の残像だけがあった。
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関西風しらすぅ@坂田家 - 坂田さんの絵本描いてる設定とかリアリティありすぎて好きです。幼いセンラさん天使すぎな。 (2019年6月16日 11時) (レス) id: f34e486c2f (このIDを非表示/違反報告)
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