検索窓
今日:2 hit、昨日:1 hit、合計:13,299 hit

ページ19

*



「坂田王子」

「…母上、何かご用ですか?」



稽古が終わり、森へと逃げた姫を追うため支度をしようとすると、母上に呼び止められた。

白基調のドレスや装飾を身に着けているくせに、顔には黒基調の悪趣味なメイク。実の母であろうと、さすがに嫌悪感をいだいてしまう。



「そんな荷物を抱えて…こんな時間にどこへ行く気なのです」

「…少し、城下町に_」

「_嘘おっしゃい」



いつもは穏やかな声を大きくし、ぴしゃりと言い放つ母上。

…やっぱり、姫の言ってた通りなんか…?母上が、姫のことを…。



「あのこは、じきに森の中で死体となって見つかるわ。あなたはここで待っていたらそれでいいのよ。あなたは、何も知らなかった」

「…し、たい…?」

「ええ、そうよ」



嘘はったりにも見えなかった。
母上は自信満々な笑みを薄く浮かべ、この場を去っていった。

どく、どくと心臓が激しく鼓動する。脳が思考を手放す。瞼の裏に、ゆっくりと倒れていく彼女の姿が映し出される。

もしかしたら、彼女は今にも鋭い刃物で刺されかけているかもしれない。雪のように白い肌から、熟した林檎のように赤い血を垂れ流しているかもしれない。

…行かないと。行かんと、あかん。助けないと、俺は…俺は王子さまやんか。


苦手な馬に乗り、森へと一直線で向かう。

枝や葉で頬を切られようが、高そうな服が汚れようが、速度を落とすなんて思考は一ミリも頭に浮かばなかった。
早く、一秒でも早く、彼女のもとに。



「…あ、」



少し開けて太陽の光が差し込むそこに、ひとりの女性がいた。

雪のように肌が白く、血のように赤い頬。風に靡く髪は夜空のような深い黒。

───姫。

声をかけようと口を開いたその時、強い風が吹き思わず目を閉じる。

少しして、目を開くと、そこには崩れ落ちる彼女の残像だけがあった。

*→←*



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (40 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
28人がお気に入り
設定タグ:歌い手
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

関西風しらすぅ@坂田家 - 坂田さんの絵本描いてる設定とかリアリティありすぎて好きです。幼いセンラさん天使すぎな。 (2019年6月16日 11時) (レス) id: f34e486c2f (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:作者一同 | 作者ホームページ:***  
作成日時:2019年5月3日 1時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。