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薄そうな胸板に無言でキャップを押しつけて先にリビングに入ってやると、えーおこった?と間の抜けた声。
もう知らんぞ、と進んで来たはいいものの、そう言えばここは人の家で、自分が何の勝手も知らないことを忘れていた。
そうこうしていると追い抜かれてしまって、そのままほくちゃんはキッチンへと進んで行った。
「ちょっとさー、話していい?」
やけに真剣な口調でそう言ったほくちゃんは、両手にマグカップを持って帰ってきた。
頷く間もなく棒立ちだった私に、そこ座っていいよとソファに促してから、自分も横に腰掛ける。
「まあ、同棲が始まるわけですけども」
「どっ…!?」
「あれ、ちがった?」
揶揄われたと気付いた時にはもう遅い。
ふふんと得意気な顔で見下ろす彼の方が、いつから一つ上手なんだろうか。
けど、それは今から始まる少し真剣な話を和ませる為の優しさだった事に私はまだ気付けなかった。
「俺、しばらく仕事ないんだけど」
「うん」
「俺あの、一応有名な人じゃん?大丈夫だとは思うけど、あんまりAにはここから出て欲しくない」
「誰に見られてるかわかんないし、出るなとは言わないけど。何かすごい大事なやつとか以外は」
先程のほくちゃんの姿を思い出した。
彼にとっての私は、とんでもないリスクなんだろう。一人で過ごせば平穏な日々だったはずなのに、私なんかを招き入れるという事は、家に爆弾を抱えて過ごすようなものだ。
だから来てしまったからには出るなというほくちゃんの気持ちはよく、分かる。
もしも私がそちらの立場なら、私も多分そうしてもらいたいと思う。
じわり、と掌に汗が滲んだ。
私が今まで接してきたのは只の飲み友達のほくちゃんだった。
その姿しか外では見ていなかったから。
でも今日からは芸能人のほくちゃんの、それに纏わる色んな事を私の行動一つで背負うのだと思ったらただ事ではない気がしてきた。
漸く、そう実感した。
もし、私なんかのせいでほくちゃんの将来や翔吾達にまで迷惑がかかってしまったら。
俯いた視界に、大きな掌が重ねられる。
あったかくて大きいそれに顔を上げると、今まで見た事ない一番かっこいい顔で、微笑まれてしまった。
「でも、もしそうなっちゃったとしても、俺がちゃんと守るから」
くりくりの瞳にはいつにも増して強い光が宿っていて、目が離せなくなって、見惚れてしまった。
私なんかにそこまで言ってくれるのは、ねえ、なんで?
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も。(プロフ) - usaさん» コメントありがとうございます!この一番もどかしい時間を楽しみながらのんびり進めていけたらと思います。更新ペースも早い方ではないですがまた覗いて頂けたらと思います(T_T)ありがとうございました! (2020年7月21日 13時) (レス) id: db66c21382 (このIDを非表示/違反報告)
usa(プロフ) - 今回の更新もとっても面白かったです。早くほくちゃんとくっついて欲しいような、付かず離れずのもどかしい距離が楽しいような…!今後の展開も楽しみにしていますのでご自身のペースで無理せず更新がんばってくださいね。引き続き楽しみにしております! (2020年7月20日 22時) (レス) id: c80ccd6f24 (このIDを非表示/違反報告)
も。(プロフ) - 飴さん» ご意見ありがとうございます^ ^長文かつストーリーが遅いことは明記させて頂いており、また趣味かつ自己満足の作品ですので読んで頂くことを強制しておりません。合わないと思いましたら読むことを辞めて頂いて構いませんよ。お時間を割いて頂きありがとうございます。 (2020年7月18日 15時) (レス) id: db66c21382 (このIDを非表示/違反報告)
飴 - 何度も続けてのコメントですみません。 長々と失礼なコメントで失礼致しました。 それでは...。 (2020年7月17日 19時) (レス) id: 4332e38eb8 (このIDを非表示/違反報告)
飴 - またまた続けてのコメントですみません...。 そして台詞の行間隔あけたほうが良いと思い ました。 行間隔が詰まっていると読みにくいので...。 (2020年7月17日 19時) (レス) id: 4332e38eb8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:も。 | 作成日時:2020年4月25日 23時