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「戸倉さん、大丈夫ですか」
「っ、」
「ゆっくり、」
戸倉さんが持っていたドープを回収したり、応援を呼んだりしている間に、戸倉さんが意識を取り戻した。
才木君が戸倉さんを座らせる。
陣内さんは、少し離れたところで煙草を咥えていた。
「陣内さんが外すところ、初めて見ました」
最後の銃声は、陣内さんが鳴らしたものだ。
誰にも当たらなかったのは、きっと偶然ではない。
陣内さんはこれで、全てに決着をつけたのだ。
「…ジッポ返して」
「え？」
「ジッポ！」
「あ、」
「最後の一服だよ。刑事ドラマでもよくあんだろ。お前好きだろ？そういうの」
「いや全然好きじゃないです」
『え』
「じゃ天然でそれか」
これも意外だった。
才木君の言動はそれこそ刑事ドラマに出てきそうな、良いように言えばかっこいいものが多いから。
陣内さんが煙草に火をつける。
「香織。…何回吸っても、やっぱ不味いわ」
才木君が戸倉さんに手錠をかけた。
「戸倉さんを連行します」
「ん」
陣内さんが私たちに背を向けて立ち上がる。
いくら陣内さんとはいえ、一応諸所の事件の容疑者なので目を離すわけにはいかないものの、もう少し1人で、奥さんと向き合う時間が必要だ。
陣内さんのことだから今更私たちを振り切って逃走とかも有り得ないし、と思っていると、突然陣内さんが不自然に立ち止まった。
ポケットから携帯用の灰皿が落ちる。
『陣内さん、？』
「陣内さん？」
陣内さんが振り返って、真っ直ぐこちらに歩いて来た。
「どうしたんですか？」
何か様子がおかしい。
さっきまでとは打って変わって、まるで人形のように表情を無くした陣内さんが、私と才木君を押しのけた。
ゆっくりと戸倉さんの前にしゃがみ込む。
「陣内…」
『っ、ダメ！』
陣内さんの右手がスーツを探るのが見えて、慌てて陣内さんに飛び掛かる。
が、陣内さんの方が速かった。
『っ…』
「Aさん！」
陣内さんは私の頬に弾を掠めさせて、間髪入れずに戸倉さんも撃った。
そして、私たちの方を振り返る。
「なんで…」
「俺がやったのか」
『…』
己の行動に驚いているかのような顔で、戸倉さんと才木君と私に視線を巡らせる。
不可解ではあるものの、元の陣内さんに戻ったみたいだった。
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作者名：ゆう | 作成日時：2025年9月5日 17時
