邯鄲之夢【文豪とアルケミスト】

偶然 ページ29

俺には、3つ歳の離れた弟がいた。名を、津島礼治と言う。礼治は可愛い弟で、いつも俺の後をひょこひょこ着いてくるような奴だった。

しかし、礼治は成人する前に亡くなってしまった。敗血症で。享年、18。亡くなるにはあまりにも早すぎた。可愛い弟は、ほんの短い時間を一緒に過ごしただけですぐに向こう側(あの世)に往ってしまったのである。

後に、俺は津島京夜と出会う。彼は同じ津島の姓として、そして同業者(作家)として仲良くしていた。だが、俺は重大な事実を知る。

風月の生年月日。それが1912年10月29日なのであった。どこが重大な事実なのか、と言われてしまいそうだが、俺にとってはとても重大なことだった。

礼治の生まれた年も、同じ1912年なのである。

同じ津島なのと、弟と同じ年の生まれ。偶然なのか、必然なのか。いや、偶然だろう。人は生まれる場所や環境を選べるわけではないし、同時にどんな名前を付けてもらえるかだなんてそんなもの選べるわけがない。

風月自身が俺のことをどう思っていたのかは知る由もないが、俺は風月を弟のように大事にしていた。つもりだ。

それは転生した今も変わらない。俺は、失くした弟と風月を重ねているのだろうか。

ーーたまに、重なるのだ。
熱心に本を読む風月の表情が、一生懸命勉強していた礼治の真剣な表情に。

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