邯鄲之夢【文豪とアルケミスト】

依頼 ページ27

「あっ、京夜先生。ここにいらっしゃったんですね。探しましたよ！」

昨日と同じように、談話室で読書をしていると、司書さんに後ろから話し掛けられた。何か、私に用でもあったのか。ならば言ってくれれば私から行ったのに。

「どうかされましたか？ 司書さん」

立ち上がって司書さんに近付く。かなり探し回ったようで、疲れているようにも見えた。ずっと私はここにいたのに、何故疲れているのだろう。私が行くところなど、自分の部屋かここくらいのものだ。

「いやぁ、ちょっといろいろありまして。それより、京夜先生。潜書、お願い出来ますか」

照れくさそうに頭を掻いて言っていたが、「ちょっといろいろ」とはどんなことだったのか⋯⋯。気にはなったが聞かないでおいた。「ちょっといろいろ」と誤魔化したのなら、はっきり言いたくはない、ということだろう。

それより、潜書だ。昨日さらっと話は聞いたが、よくは分からなかった。まぁ、習うより慣れよとも言う。兎に角実践してみようと思い、放っておいたのだった。

「えっと⋯⋯有碍書、でしたっけ。たしか本が侵蝕されているんだとか」

うろ覚えに近いが、仕方あるまい。有碍書、侵蝕なんて言葉は、まだ言い慣れない。司書さんはそれでも分かっていたようで、こくんと首を縦に振った。

「はい、そうです。太宰先生と一緒に行っていただけませんかね⋯⋯？」

潜書の依頼、というわけか。断る理由もなければ、そんな身分でもない。引き受けようか。

色々→←道程

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