邯鄲之夢【文豪とアルケミスト】

夢裡 ページ19

ーーこんな夢を見た。

「京夜兄さん、京夜兄さん」

私を呼ぶ声がした。幼い子どもの声だ。十歳くらいだろうか、ぼんやりとその姿が見える。
私を、京夜兄さんと呼ぶ人は誰だっただろう。私は、水の中に浮かんでいるような、妙な浮遊感を感じている。

「京夜兄さん、僕だよ。思い出して」

揺さぶられているような気がする。私は、誰がそこにいるのかを確かめようと、目を見開く。案外、簡単に目は開いた。そこに立って、私を揺さぶっていたのは、津島京介ーー私の弟である。

くっきりと、京介の姿が映った。女の子のように、さらさらで、肩まで伸ばした髪は、間違いなく京介だ。

「京介⋯⋯？ どうしてここに」

「良かったぁ、思い出してくれたんだね。僕のこと、忘れちゃったかと思ったよ」

忘れるはずもない。私が⋯⋯私が殺してしまいそうになった実の弟を。そんなことも知らずに(知っているかもしれないが)目の前にいる京介はにこにこと笑っている。

京介は、私に何か言いたげだったが、口は開かなかった。ただ、二人の時間だけが過ぎていく。私は京介の口が開くのを待っているが、京介も私の口が開くのを待っているのかもしれない。

「あのさ」

声が重なった。驚いて、京介を見つめると、京介も驚いているようだった。一応年上の私は、「どうぞ」と京介に発言を促す。

「うん、あのね京夜兄さん⋯⋯」

その発せられた言葉を、聞き終わらないうちに現実への波が押し寄せた。私はそれが夢だと知る。

ーー何故こんな夢を見たのか、私には検討もつかない。

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