邯鄲之夢【文豪とアルケミスト】

星座 ページ17

「うん、もちろんいいよ！ ⋯⋯もしかして、風月さん、ボクのこと知ってるの？」

宮沢先生が親切な方で良かった。いや、宮沢先生を意地悪な人だと思ったことはないが。先生は談話室に向かって足を進めるので、私は話しながら会話を続けることにした。

「はい⋯⋯私も岩手の出身で。宮沢先生の作品、とっても好きですよ」

また宮沢先生はにこりと笑う。人懐っこい笑顔がよく似合う人だ。先生の作品を、「とっても好き」なんていうありふれた感想でしか述べられない自分を恨む。

「そっかぁ、風月さんもイーハトーヴの人なんだね！ あ、星が綺麗だよ！」

夜なのに、カーテンの閉まっていない廊下の窓。そこからは、無数の星と一つの月が、真っ黒な空に浮かんでいた。そういえば、宮沢先生の胸元には双眼鏡のようなものがある。やはり星が好きなのだろうか。

「あかいめだまの さそり
ひろげた鷲の つばさ
あをいめだまの 小いぬ、
ひかりのへびの とぐろ。」

私は小さな声で呟く。宮沢先生は驚いて私を見たが、やがて目線を窓の外に戻した。私も改めて星を見上げる。残念ながらさそりは見えなかったが。

「オリオンは高く うたひ
つゆとしもとを おとす、
アンドロメダの くもは
さかなのくちの かたち。」

今度は宮沢先生が詠う。季節は冬、オリオン座が空に大きく浮かんでいる。

「大ぐまのあしを きたに」
「五つのばした ところ。」
「小熊のひたいの うへは」
「そらのめぐりの めあて。」

ふふふ、と二人で笑い合う。宮沢先生と、二人でこんなことが出来るとは思わなかった。やはり、連れてきてくれた太宰と司書さんに感謝だ。

「談話室はこっちだよ、風月さん」

♤♡♧♢
星めぐりの歌/宮沢賢治
著作権が切れているので引用させていただきました。

絡ませてほしい文豪がいたらコメント欄へぜひ。

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