Fall. (ページ46)

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46 Ending. ページ46

目を覚ますと異様に世界が白い。
昼なのか、案外夜なのかすらも分からない。
睡眠薬の効果が切れたようだ。
一応10年分であることを
確かめて打ったものの、
実際の経過時間は分からない。
重くて持ち上がろうとしない
頭を無理やり起こし、辺りを見渡した。
秒針の音が響く。ああ、そうか、行かねば。
私は不器用な足も忘れて立ち上がろうとし、
よろけた。慌てて杖を探す。
杖を突きながら若様の家へと向かった。
ノブを静かに捻る。んん、と声がした。
良かった。まだ、いる。

｢おはよう、ぴったり今日が最後の日だ。｣
若様はめかしこんで、
シオンの花を1輪持っている。
ええ、と私は妙な返事をして、
一歩足を踏み入れた。
私はそのまま部屋の奥まで進むと、
そこが指定席であるかのように
1つ咳払いをした。

｢御父様。｣
程なくして、部屋にマリ様、ヴァリテ様、
リュウ様、シエロ様がやって来た。
ヴァリテ様は、小さな声で若様を呼んだ。
｢どうして。｣
若様は挨拶でもするかのように言った。
返答を求めている風ではない。
それでも、ヴァリテ様は言った。
｢本当の親は、2人しか居ないんだ。
もう、僕にはあなたしかいないんだよ。｣
ヴァリテ様はそう言って跪くと、
若様の手の甲に口付ける。
マリ様はその様子を、
悲しそうに見つめている。

｢ありがとう。｣
若様はそう言うと、寝台に横たわり、
一人一人の目をそれぞれ見つめ、目を瞑った。
静まり返った部屋に君臨していた呼吸音が、
とうとういなくなった。
｢ありがとう。｣
誰かが言った。
私は若様の遺体をじっと見つめ、呟く。
｢知らなかったのでしょう。
今後も知らないんでしょう。｣
続きは言わない方が良いだろうと、
私は自分に言い聞かせた。
結局間に合わなかったのに、
まだ怖気づくのだ。
｢さようなら。｣
臆病者の私の身の丈に合うのは、
この言葉だけだろう。

若様はルナード様の隣に安置され、
今なお安らかに眠っている。
私は、毎日墓に参って、
若君のことを報告するのだった。