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「___あ、私、今から出掛けるんです」
引かれた手を引き止めたのは、私の一声
云いそびれていたけれど、私が今ここを通りかかったのは外へ出るためで
つまり帰宅する中原さんとは行き先が逆なのだった
ではまた、なんて云って
踏み留まりつつ手を離そうと__するのだけどそれは何故か叶わず
代わりに、こっちを振り向いた中原さんを、尋ねるように見上げてみれば
「手前それ、本気で云ってんのか」
これまた何故か、呆れたような声が降ってきた
え、と思わず目をぱちくりさせていたら、遠慮のない溜め息を吐かれて
靴音を響かせて私の方を向き直る中原さん
真っ直ぐ覗き込んでくる蒼眼に、疑問符を纏う私の姿が映り込んでいる
「あのなあ、今何時だよ」
「え、えっと、十二時…?」
「そうだ、夜中の十二時だ」
付け足し、強調された " 夜中 " という単語
一向に離される気配のない中原さんの手
それでも判らず首を傾げれば、諭すような、それでいて少し怒ったような声音で云われた
「こんな夜中に出歩いたら危ねえだろうが」
言葉と共に心做しか、手首の握られる力が強くなった気がして
私を見据える二つの蒼い目に、ぐっと熱が込められた気がして
ほんの一瞬、息をするのを忘れてしまう
「俺のこの手も解けねえくせに、危ない真似すんじゃねえよ」
行くのはすぐそこのコンビニだし、夜中と云ってもそれなりに明るい街だし、私みたいなのを好き好む男の人なんて居ないし
咄嗟に浮かぶ主張は、どれも取り合ってもらえなさそうで諦める___だって貴方は優しい人だから
ああ、でも
「……でも、冷蔵庫が空っぽなんです」
お陰でまだ夕食にありつけていないのだ
うちの冷蔵庫と同じく空っぽな私のお腹が、コンビニ目指して音を鳴らす
私も帰宅したのはさっきのことで、こんなに仕事が遅くなりさえしなければ、なんて愚痴では腹は満たされない
「ふはっ、何だよそれ」
「だって最近忙しくて、だから…」
訳を聞いて途端に笑い声を零す彼
だらしないところを見せてしまってちょっぴり恥ずかしく思う私へ、中原さんが次に発したのは
仕方ねえな、でも、残念だったな、でもなく
「んじゃあ、俺も連れてけ」
ほんのり甘く、やっぱり優しい声と言葉
ついでに彼は、私が何か云い返すよりも早く、私の手を握り直して微笑んだ
「俺が居れば危なくねえだろ」
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楓(プロフ) - 完結おめでとうございます!鼻血が出過ぎてぶっ倒れる所でした(笑) 推し尊い…… (2019年4月3日 0時) (レス) id: 381002261f (このIDを非表示/違反報告)
まめ(プロフ) - 完結おめでとうございます!キュンキュンが止まりませんでした。ありがとうございます! (2019年4月2日 16時) (レス) id: 4d7fcc5e30 (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - 完結おめでとうございます。いいお話でした。 (2019年4月2日 15時) (レス) id: 1bfa3e637e (このIDを非表示/違反報告)
shinox2(プロフ) - 更新されてる?( ☆∀☆) (2019年2月9日 10時) (レス) id: c23d485c4b (このIDを非表示/違反報告)
紅葉 - あぁ、、、推し(中也)が尊い、、、 (2019年2月9日 9時) (レス) id: c6be9b3184 (このIDを非表示/違反報告)
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