19 ページ19
·
好きになりかけた人は、マフィアでした
未だ後一歩のところで、完全に恋に落ちるのを何とか踏みとどまっているこの心は、そんな無理難題をどうすることも出来ないでいる
「どうぞゆっくりしてて下さい」
「……おう」
珈琲を淹れる支度をしつつ、ふと振り返れば、私の言葉に頷きながらも居心地の悪さがだだ漏れの中原さん
それは部屋がどうとかではなく、私と中原さんの立場と関係性が問題だってことは云うまでもなくである
「そんなに高い豆じゃないから、お口に合うか判りませんけど」
「心配いらねえ、手前が俺のために淹れたってのが大事なんだ」
マフィアの幹部を家に招き入れるなんて、特務課の人間として問題行動にも程があるし
見方を変えれば、女一人の部屋へ簡単に男の人を上げている訳で、それも如何なものかと
自分のぽんこつさ加減に呆れる苦い感情が、珈琲の香りと胸の中で入り交じった
「どうぞ」
「有り難く頂くぜ」
「良ければ感想、聞かせて下さい」
差し出した珈琲を一口、口にする中原さん
それだけで絵になってしまうのだから恐ろしい
帽子も、外套も、手袋も、中原さんを構成するもの凡てに心惹かれそうになる
「どうですか…?」
「ん、最高だ」
「有り難うございます」
そんな訳ないのにな
ぶっちゃけてしまえば本当に安い豆だし、淹れたのだって珈琲に何のこだわりも持たない素人の私だし
だから「お世辞でも嬉しいです」と付け加えれば、中原さんは不服そうな顔を見せた
「俺は世辞は云わねえ」
「でも私、人に淹れたのは初めてですし」
「……それ、本当か」
「え?」
「俺以外に手前の珈琲を呑んだ奴は?」
「居ません、けど」
すると唐突に、中原さんは、片手を帽子に添えながら「すげえ嬉しい」なんて大きな溜め息と共にテーブルに突っ伏した
吃驚して声を掛けると、体は起こさないまま此方へ寄越された目線は、必然的に上目遣い
「他の奴には飲ますなよ」
「え、どうして、」
「俺だけにしろ」
よく判らないけど、こんな珈琲一杯で大げさじゃないだろうか
珈琲なんて中原さんが自分で淹れた方が美味しく仕上がりそうだとさえ思うのだけれど
「なあA、嫉妬って知ってるか」
「や、やきもちのことですか?」
「俺は独占欲が強いからな、あんまり妬かせねえ方が身のためだぜ」
それでも、心を掴んで離さない彼はずるい
·
780人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
楓(プロフ) - 完結おめでとうございます!鼻血が出過ぎてぶっ倒れる所でした(笑) 推し尊い…… (2019年4月3日 0時) (レス) id: 381002261f (このIDを非表示/違反報告)
まめ(プロフ) - 完結おめでとうございます!キュンキュンが止まりませんでした。ありがとうございます! (2019年4月2日 16時) (レス) id: 4d7fcc5e30 (このIDを非表示/違反報告)
りん(プロフ) - 完結おめでとうございます。いいお話でした。 (2019年4月2日 15時) (レス) id: 1bfa3e637e (このIDを非表示/違反報告)
shinox2(プロフ) - 更新されてる?( ☆∀☆) (2019年2月9日 10時) (レス) id: c23d485c4b (このIDを非表示/違反報告)
紅葉 - あぁ、、、推し(中也)が尊い、、、 (2019年2月9日 9時) (レス) id: c6be9b3184 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ