【文スト】となりの太宰さん

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まさに、意を決して



「太宰さん」

「ん？」

「ちょっと二人でお話が」



お昼休み、声を掛けた私に

それなら良いところを知ってるよ、と、得意げな太宰さんに付いて行ってみれば

遠く下の方を行き来する人や車

ずっと奥に並ぶ家々まで見渡せる景色


「……良いところって、屋上、ですか」


ぽつりと漏らすと、太宰さんが大きく頷いた



「私死にませんからね」

「心中、考えてくれてたの？」

「違いま」

「君が云うなら今からでも」

「結構です！」



一応のつもりで云っただけなのに

いつの間にか太宰さんのペースに乗せられて、ちょっと分が悪いなと口を尖らせる

屋上のど真ん中に腰を下ろして、昼食を広げた



「手作り弁当なのだね」

「……適当、ですよ？」

「美味しそうだよ」



だいたいが前の晩の残り物の詰め合わせだ

ただし昨夜は、蟹と蕎麦を同じ釜にぶっ込んだものが夕食だったから、今朝は苦労したけれど



「というか美味しい」

「あ、ちょっと」



つまみ食いされる私の昼食

ああもう全く

そんな美味しそうに食べたって許しませんからね

お弁当を遠ざけると、 太宰さんは子供のように頬を膨らませた



「で？ 何か話があるんだろう？」



そうだ、聞きたいことがあったのだ

相変わらず彼のペースで促された私は、お箸を丁寧に揃えて置いて、もぐもぐしてたものをごくんと飲み込む

それから息を、深く吸って




「あの、太宰さんは本当に、私を……」




その割に出た声は小さかった



「信じられない？」

「はい」

「キスまでしたのに？」

「……はい」



キス、の二文字に少し戸惑いながら頷くと

太宰さんは困ったように首を傾げて、風に吹かれる蓬髪をくしゃっとかき上げると

それからその手を、私の顎に添えた




「ならもう一回、する？」




太宰さんに埋め尽くされる視界

ドキリ、心臓が波打つ



「け、結構です」

「でも今朝のキスは、したうちに入れてもらえてないみたいだし」



あ、国木田さんとの会話聞かれてたんだ、しかも私が口走った莫迦みたいなことまで

なんて思うと、余計に心拍が上がる



「ねえAちゃん」

「……はい」

「今日ずっと私のこと考えてたでしょ」



恥ずかしくて何も云えない、けれど、この場において無言は肯定を意味すしてしまう



「ずっとそうしてて欲しいくらいには、君が好きなんだけどなあ」



呟く太宰さんの口もとが、ゆるりと弧を描いた




「＿＿＿私は本気だよ」




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