【文スト】となりの太宰さん

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＿＿＿目覚めの悪い朝だった


いつもなら、目覚まし時計が鳴る五分前に起きるのに

起きてからもこう、何ていうか、意識が覚醒を拒んでる感じというか

完全に目を覚ましてしまったら、何かとてつもないことを思い出してしまいそうで、それが嫌で、って感じというか



「んんん、何だっけ……」



疲れでも溜まってたんだ多分、そう自分に云い聞かせて家を出た

向かうは探偵社

今日も書類が私を待っている



「やあ、おはよう」



隣の部屋の前を過ぎた直後に声が

いや、きっと気の所為だ




「君のところの目覚まし時計で私まで目が覚めてしまったよ、これは大家さんに苦情ものだね」




やっぱり聞こえる、聞こえるけど




「無視は良くないなあ」




例えこうして腕を掴まれたって、気付かない振りをしていたかった

なのに、腕と共に体が引き寄せられて、その先には砂色の外套がちらついて

頬が大きな手に包まれて、否応なしに上を向かされる




「ねえ、Aちゃん」

「…………思い出しちゃった」

「忘れたとは云わせないよ」




視界のど真ん中

太宰さんのやたら整ったお顔

ほら、こんなにも近くで私を見下ろしている

少しの間違いで軽くキス出来そうな間合いと、昨日の出来事とが相まって、心臓が徐々に暴れ出した



「おはようAちゃん、ほら、返事は？」

「……おはよう、ございます」



目を逸らすことも叶わない

絶対に逸らすな、って、その鶯色の瞳が訴えかけてくるのだから


「今朝は良い朝だね」


一言の後、顔を更に近く傾けられて

やばい、と、反射的に目をぎゅっと閉じた




「…………」




何も、されない

杞憂、だったのだとしたら、とんでもなく恥ずかしくて死にそうなのだけど

と、そっと目を開いてみた時




「……ん、い、いま！」




唇に柔らかい感触

それと悪戯っ子のような笑み

ああどうだろう、悪戯っ子だなんて言葉で片付けてしまうには、彼は少し色っぽ過ぎる



「だ、太宰さん！？」

「この方が照れると思って」

「なっ！」



やっと解放された顔は、とても熱い

手の甲でいくら冷やしても熱はちっとも収らない

一方太宰さんは呑気ににこにこしてて、何か云い返したいけど、生憎良い言葉が見つからなくて悔しい



「職場まで送ってあげる」

「私の職場は貴方の職場です！」

「ふふ、幸せだね」




探偵社への道のりは長い

国木田さん、遅刻してもどうかよしなに




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