【文スト】となりの太宰さん

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ああ、最高に最悪な気分だ

昨夜はせっかく良い眠りにつけたというのに

その安眠は、彼女によるモーニングコール以外の妨げを許さない筈なのに

何だって朝イチから、大っ嫌いな奴の顔を拝まなきゃならないのか



「はあ……」



盛大に漏れた溜め息

そのまま胃の中の物まで、全部吐いちゃいそうなくらいに気分が悪い

ああでも、今朝は何も食べてないから、胃の中は空っぽだし吐くものも何もない

いつもなら、彼女お手製の美味しい朝ごはんを突っついてからの出勤なのになあ

それもこれも、あの蛞蝓の所為だ

朝っぱらから力技で私の部屋へ侵入して来たかと思えば私に殴り掛かってくるんだもの

物騒な世の中だよ全く

あの派手な異能で大きな音も揺れも起こして、ご近所トラブルの種をまいたようなものだし




「判ったらさっさと業務に向かえ！」

「はーい」



遅刻の件に関しては久し振りとなる国木田くんのお説教は、一段と長かった

きっと私が前に云った宣言を破ったからだろう

あんなの、Aちゃんとお近づきになりたいがための口実に決まってるのにね？



「さてと」



素直に業務に向かう

なんて選択肢、私には有り得ない

向かうのはもちろん、一直線にAちゃんのところに決まってる

書類と睨めっこしている彼女のもとに、そーっと近付いて、そーっと耳元に口を近付けて、そーっと



「……Aちゃん、おはよう」

「ひゃ！？ だ、太宰さん！」



ふふ、と自然に零れる笑み

ずっと聞きたくて仕方なかった可愛い声

一瞬で胸が満たされたこの感覚に、また少し、彼女への気持ちが膨らんだ




「今朝はどうして私を置いて行ったんだい？」




判りきってるのに、敢えてにこやかに聞いてみる

困るだろうか、それとも怒るだろうか

って想像を巡らせるけれど、まあ結論、彼女はどんな反応を示したって可愛らしいのだ

だけど、だけどね




「……太宰さんこそ、今朝家にいらっしゃった女の人はどなたですか」




これは、ちょっと予想外

Aちゃん今、女の人って云った？

うちに居たのはあの脳筋蛞蝓だけだから、蛞蝓がAちゃんの云う " 女の人 " だということになるけれど

ああそういえば、確かAちゃんは、昨夜ものすごい量のお酒を飲んでいたっけ

と、ここまでコンマ二秒

導き出された答えは



「……私のことはもう良いんですか」

「おやおや」



ふうん、蛞蝓にしては良くやったんじゃない？



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