12 ページ12
·
まるで絵本の中に迷い込んだかのような
優雅で愉しげな景色が、目の前に広がるのを眺めては感嘆の息が漏れた
「__A」
「なに、中也」
あれからしばらくして、ようやく中也に呼ばれる名前にも慣れてきたし
なんて、呑気に振り返れば
「大人しく俺にエスコートされてろよ」
今度は息が止まりかけた
いつもの洒落た服装と違って、真っ黒なタキシードに身を包んだその姿
すらりとした体つきに亜麻色の髪が靡いていて
夜闇に光る蒼い目を細め、中也がそこに立っていた
うん、さながら絵本の紳士だ
「大丈夫だし、エスコートなんかされなくたって」
「はあ? そうは思えねえけど?」
ドキン、なんて心臓の音、私は聞こえてない
とにかく中也を視界の外へ出そうと、体ごとそっぽを向こうとした
しかしその足は、慣れない高いヒールを履いていたことを忘れていて
「わっ!?」
上手く声にならない悲鳴と共に、バランスを崩した体が無様に傾いた
やけにスローモーションに感じた次の瞬間
「あっぶねぇな」
ギュッと閉じていた目を開けると
「だから云ったろ、俺から離れんな」
どアップで映し出される中也の顔
呆れつつ心配を滲ませるその顔は、嫌ってほど端正で嫌ってほど近くて
支えられて触れ合う体が、中也に抱き止められた事実に反応して、急激に熱を持った
「ご、ご、ごめんなさい」
弱々しく謝って、中也の腕の中から体を起こす
が、しかし、『離れんな』と云った中也の言葉が形となって現れた___
___強く握られたままの手
「中也、あの、手」
「駄目だ、危なっかしいから繋いでろ」
即答されてしまった
いかにも仕方無しという風な口調
それなら離せば良いのに、と思うけど、裏腹に手はギュッと握り直されてしまう
「……こうでもしねえと逃げんだろうが」
中也が何か呟いた気がして、ふと首を傾げるけど
それに気付いた中也は「何でもねえよ」と、誰もが見蕩れるような笑みを携えた
「おら、行くぞ」
言葉はぶっきらぼうな割に、私の手を引くその手は存外とても優しい
中也と共に入り込んだ、賑やかな世界
今宵は例のパーティーナイトである
中也のスーツ姿も然り、私も私とて、不慣れながらもドレスアップしていた
「何かあったらすぐ云えよ、A」
ご馳走とお酒と、笑い声に溢れる会場
私を華麗にエスコートする中也は、ちょっぴり王子様に見えないこともなかった
·
678人がお気に入り
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ライム - めっちゃ最高でした!!中也かっこよすぎてつらいです!こんな最高の作品を生み出してくださってありがとうございます!!!! (2022年12月26日 17時) (レス) @page43 id: e7904a37c4 (このIDを非表示/違反報告)
なかはらあお(プロフ) - はじめまして、作品見させていただきました。お話の構成も内容もとても素晴らしく感動しかありません、どんぐり様のこれからのご活躍心より期待しております。長文失礼致しました。 (2018年4月22日 10時) (レス) id: a71351843d (このIDを非表示/違反報告)
藍音 - 凄く面白かったです!私の名字もナカハラがよかった... (2018年2月7日 0時) (レス) id: a82b5889f9 (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 完結おめでとうございます!!きゅんきゅんしました…! (2018年2月1日 22時) (レス) id: c5a450a737 (このIDを非表示/違反報告)
shinox2(プロフ) - こんな時間に一気に読んでしまいました〜。眠たいのにドキドキが止まらなくて寝付けそうにありません!!(>_<) (2018年2月1日 2時) (レス) id: c23d485c4b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ