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店員さんがそっと運んで来た、お皿に飾られた可愛らしいパンケーキ
太宰さんの頼んだ珈琲と共に、テーブルへ乗せられたそのスイーツは何故か、メニューで見たのと盛り付けが違っていて
「ただ今、恋人連れのお客様限定で、苺のトッピングを追加させて頂いております」
さらりとそれだけ云って、店員さんはにっこり立ち去って行った
そんな後ろ姿を呆然と見送る、私の耳もとに
いつの間にか太宰さんの唇が寄せられて、甘く響かせるように、声が吹き込まれる
「ねえ、恋人連れ、だって」
「っ……や、あの」
「ふふ、君の恋人って、私のことだね」
違う、というように首を小さく振ったけれど
違わないよ、と、太宰さんは笑顔で私の否定を否定
力の緩んでた私の右手を握り直してから、おまけにもう片方の手で、私が握り返すよう促したりするのだ
「あの店員さんには確かに、私達が恋人に見えたのだもの」
嫌だ、やめてよ、そんなのずるい
間違われたことを笑ってくれたら良いのに、きっとそうして現実を突きつけられるのだと身構えていたのに
どうしてそんなに、私に夢を見せたりするの?
「ほら、君の頬と同じ真っ赤な苺が証拠だ」
わざとらしく甘ったるい台詞、気障な笑みに添えられたりなんかしたら、心臓なんて幾つあっても足りない
そんな空気から、逃れるために
「い、頂きます……!」
体温の上がった手で、フォークを取った
利き手じゃない左の手に握ったフォークで、ふかふかなパンケーキの端の方から、切り込みを入れていこうとするのだけど
厚みのある生地はなかなか、フォークを上手く受け入れてくれなくて
「手伝ってあげようか?」
そんな私に降り掛かる、太宰さんの声
「大丈夫です、自分で、食べれます、から……」
その意味はすぐに理解出来て、首を大きく横に振って必死に答えると
「何のために君の利き手を結んだと思ってるの」
太宰さんが口を少し尖らせて、不服そうに私を見つめ下ろした
いじけた子供のような視線
どきりとくすぐられたりする胸の奥
「私を頼らせるためなのだけど」
それは瞬きほどの合間のこと、フォークが太宰さんの手の中に攫われた
あっ、と声を上げているうちに、太宰さんは器用に一口分のパンケーキを切り取って
____差し出すのは、私の口もと
「ねえ、美味しい?」
「……美味しいです」
甘過ぎるくらいなのは、きっと太宰さんの所為だ
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桜月(プロフ) - 完結、おめでとうございます!!太宰さんの仕草や言動のひとつひとつにすごく胸がきゅっとなって、、めちゃめちゃキュンキュンしました!とても読んでいて楽しかったです!! (2021年10月11日 0時) (レス) @page28 id: cb743e60b6 (このIDを非表示/違反報告)
千桜里 - はじめまして!太宰さんの心情や行動にとてもドキドキしました!!本当に面白かったです! (2020年9月29日 12時) (レス) id: d647e09f50 (このIDを非表示/違反報告)
ヲタ娘(プロフ) - はじめまして。ヲタ娘です。すごく胸がキュゥ……として、フワフワっとしました! とっても面白いです! (2019年3月4日 20時) (レス) id: 737d873cb6 (このIDを非表示/違反報告)
桜紅葉 - 完結おめでとうございます!リクエストよろしければその後の話が読みたいです。お願いします。 (2018年3月7日 6時) (レス) id: 54de0e772b (このIDを非表示/違反報告)
月ノ輪(プロフ) - 完結おめでとうございます!すっごく可愛くて胸きゅんばっかしでした!他の作品も楽しみにしています♪ (2018年2月22日 13時) (レス) id: 3aab0973d9 (このIDを非表示/違反報告)
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