【wrwrd】できない【shp】 (ページ29)

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とぅえんてぃ_ないんページ29

「こっちおいで」

真っ白な猫だった

模様の入っていない真っ白な猫

でも、傷がある

「なんかあったんやな…」

とても人懐っこくて、横に寄り添ってこちらをそっと見つめる猫の前足にはおそらく大きな傷がある

「あれ、先客だ」

少し撫でていると、眠くなったのかネコがあくびをしたと同時に、後ろから声がかけられた

「一年生かな？俺はひとらんらん、3年生だよ。よろしく」

「ショッピっす。1年です、よろしくお願いします」

「うん、よろしく」

それが、彼との出会いだった

「その子の怪我、結構酷かったんだけど、もう大丈夫そうだね、よかった」

「あぁ、すみません。先輩の場所だったんですね、ここ」

ここは彼の場所だったらしい

誰だって気に入っていた静かな場所に他人がいたら不快だろう

俺はすぐに腰を上げようとした

「退かなくていいよ。俺はその子の怪我が気になって通ってただけ」

「そっすか」

自然な動作で俺の動きは止められ、気が付けば彼とともに座らされていた

「こいつ、何があったんですか？」

「…おふざけでいじめられてたんだよ。お湯をかけられて、腕に火傷しちゃった」

そんな奴がいるなんて

彼が優しく猫を見つめるのをなんとなく眺める

この人は、とても猫を大切にしているみたいだ

「もちろん、そいつらはもうこの学校にはいないけどね」

「…？」

「色々やらかしてる奴らだったからさ」

あの時少し笑った彼の瞳には、とても言い表せない強さがあった

その後、彼が卒業するまで昼休みは2人と1匹で体育館の裏にいた

当初予定していた静かな昼寝スポットとは程遠い、少し賑やかな遊び場

特段接点なんてない

委員会に入っていなければ、部活だって適当にやっていた上、彼とは部活は違った

ただ昼の時間

少しだけ話す機会があっただけ

それでも俺は彼を信用していた

「先輩、卒業おめでとうございます」

彼が卒業する頃

例の猫の怪我なんてとっくに治っていたし、俺にだって昼ごはんを共に食べるくらいの友達は出来ていた

でも、俺と先輩は猫と一緒に昼休みを過ごした

1年間、ずっと

「ありがとう、ショッピ」

傍にいたはずの猫は一つにゃぉ、となくと何処かへいなくなって

その後、一度も見るとこはなかった

思えば、腕に怪我を負い、純粋な瞳を向けるその猫は、Aに似ていて

そんな猫に優しくする彼を、俺は

Aにも、優しくしてくれる人だと判断したのかも知れない