百八十二。思わぬ来客 ページ2
「はぁ、冷た……」
師走に入り、水仕事がいよいよ本格的に辛い時期になった。
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『Aちゃん、これ使って。よく効果が出て少しすれば直ぐに治るから。気にせずもっとマメに塗りなさい』
開店前の仕込み時間。
旅館の仕事を抜けて、焼菓子の差し入れを持って来てくれた慶子さんが、新品のハンドクリームを私に差し出した。
『食品に直に触る時は、また洗えば良いんだから。そうでない時は少しでも塗っておく時間を増やすのよ』
進行するばかりの私の手荒れを気遣ってくれるその優しさが、心に染みる。
「ありがとうございます。有り難く使わせて頂きます」
私がそう答えると、慶子さんはニッコリ微笑んで
『夜はまた檜のお風呂用意しておくからね。今日も頑張って』と言ってお店を後にした。
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『しっかし、Aは相変わらず愛されるタチだなぁ』
銀鱈の下処理をしながら、慶子さんの去り際に昌宏さんが口を開いた。
『俺らだって荒れんのに、お袋に心配されたことなんか一度もねえよなぁ』
“どう思う？” と、昌宏さんの隣で一緒に仕込み作業をする見習いの横尾くんを肘でつついて悪戯に笑う。
『Aさんのおかげで、毎晩繁盛してますしね』
『ったく、全然来てなかった白河のおっちゃんもAがうちにまた来たって知ってから毎日のように来てるし』
『それを言うなら扇町の加藤さん夫妻も(笑)』
有り難いことに…
松玄邸へ戻って来てから、毎晩のように修行時代の馴染みのお客様が足を運んでくれている。
『今晩も予約埋まってるしな。さて、頑張りますか』
ひとりでも多くのお客様に料理を喜んで頂くこと。
それが、今の私の心の支え。
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ガラッ＿＿＿＿
『…こんばんは』
「いらっしゃいま……え、智くん！？」
不意に開いた玄関扉に目を向けると、思わぬ来訪に面食らう。
『お〜、智か？久しぶりだな！』
私の声に気が付いた昌宏さんも、カウンター越しから智くんにそう声を掛けた。
『松兄、久しぶり。Aがまた世話になってるみたいで』
『なーに水くせえこと言ってんだよ(笑)』
以前の修行中にも何度か来たことがある智くんは、昌宏さんとはすっかり打ち解けた仲だった。
「驚いた…連絡くれたら良かったのに」
『ごめん、ほとんど思いつきみたいなもんだからさ』
私たちのそんなやり取りに『いいから、ここ座んな』と昌宏さんがカウンターの端の席に智くんを誘導した。
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miihoo(プロフ) - こんにちは 以前コメントさせて頂いた者です。また読み返してみました。お仕事お忙しいのでしょうね。気長に更新待ってます。大好きなお話なので。 (2022年6月12日 18時) (
レス) @page9 id: 1ac01d1ff9 (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - 初めてコメさせていただきます。智くん担の私としては…やっばり智くんと結ばれて欲しかった。こんなにも主人公ちゃんを心から想っている智くんの気持ちが切ない😭 (2021年10月16日 11時) (レス) @page9 id: bd0ebe94fc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ティファニー | 作成日時：2021年10月10日 15時
