百五十九。追憶【麻】 ページ9
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「すみません、ここで降ろしてください」
深夜のオフィスをあとにして乗車したタクシー
六本木通りを差しかかり、自宅に到着する随分前にも関わらず運転手にそう伝えて、人気の無いけやき坂に降り立った。
凡そ3年前…翔に、別れを告げた場所。
夜風が肌に冷たく刺さる真夜中、コートの襟元に顔を埋めて、苦い記憶を呼び起こしながら歩く。
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安泰を求めてなんとなく入社した大手商社
さほど仕事に対して野望もなく、ある程度で見切りをつけて早く結婚したい。
そんなありきたりな将来像を描く、ごく普通の女子だった。
入社2年目になってすぐ、ニューヨーク赴任が決まった翔と付き合い始めた私は
すぐにでも退社していいと思うほど、彼のことで頭がいっぱいだった。
付き合い初めの頃こそマメに帰国して会いに来てくれていた翔だけど、仕事が軌道に乗るにつれて次第にその頻度は減り、いつしか連絡をするのは、いつも私からになっていた。
口を開けば、早く結婚したい…そればかりの私に
翔はどちらとも言えない態度を取り続けた。
5年が経った頃。
不意に彼を訪ねにニューヨークへ発ったことがある。
ニューヨーク支社のロビーで、喜ぶ顔を期待しながらエレベーターホールの見えるチェアに腰掛けて彼を待った。
だけど…
仕事を終えてロビーに降り立った翔が、顔を上げて私を視界に捉えた瞬間
困った、と言わんばかりになんとか笑顔を作ろうとして “あ…、よく来たね” と呟いた時には
ああ、このヒトの気持ちは
もう、私には無いのだと悟った。
若かった。
この一言で私たちの6年を全て片付けられるとは思わないけど
異国の地で闘う翔を
本当の意味で支えられていたか？と問われると
決してYESとは言えない私だったと思う。
なぜ、会いに来てくれないの？
なぜ、来いって言ってくれないの？
なぜ…いつも私からなの？
同じ会社に勤めていながら、彼の仕事を理解しようとするでもなく
気が付けば私は、彼を責めるばかりだった。
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“俺と、結婚して”
すれ違いの続く私たちを見ていられないと、潤はそう言った。
“俺なら、麻里奈に寂しい思いなんてさせない”
力強い瞳で私を捉えてそう言う潤を見つめると
もしかしたらこの彼の腕の中に、私の欲しい未来があるかもしれない。
突然の潤の申し入れにも関わらず、どうしようもなくそう思えた私は
翔と別れて、潤と結婚することを決めた。
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ゆり:)(プロフ) - このお話が大好きで再開してくださり、とても嬉しいです。取材を受けられるなんてすごいですね！お店に行ってみたいです！ (2021年10月5日 20時) (
レス) @page31 id: 4c9de357d4 (このIDを非表示/違反報告)
miihoo(プロフ) - こんばんは。お仕事の方もお疲れ様でした。更新もありがとうございます。私もざっくり飲食関係の仕事なので身近に感じて毎回楽しみにしています。そしてこのお話の翔ちゃんが大好きです。続きを楽しみにしてますね！ (2021年10月2日 19時) (レス) @page27 id: 4ea876c979 (このIDを非表示/違反報告)
nao(プロフ) - 続きが楽しみです！楽しみにしています！！ (2021年9月19日 18時) (レス) id: afb0ab4a24 (このIDを非表示/違反報告)
shi(プロフ) - こんばんは。元彼女め…とモヤモヤしますね( .. ) この後の展開がドキドキです！！更新楽しみに待っています！ (2021年5月29日 21時) (レス) id: 4f699932a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ティファニー | 作成日時：2021年5月23日 0時
