百五十六。あんな女【翔】 ページ6
給湯室のドアに寄りかかっていた身体を起こした麻里奈は、そっと俺の隣のデスクの椅子をひいて腰を下ろした。
日付もとうに超えた深夜。
「…もう遅いから、早く帰れ」
PCから視線を逸らさないままそう言った俺の言葉に応えることなく、麻里奈は話し出した。
『菊池くんとのやり取りを見て、昔のこと思い出しちゃった』
え？
『入社間もない頃、ミスして叱られてる時に翔がフォローしてくれたこと』
『変わってないなぁ、って』
そう言って、熱っぽく俺を見つめる麻里奈に気付き
急に焦燥感に駆られ出す。
「…先輩として、上司として、当然のことをしたまでだよ」
「菊池へも…お前へも、それは同じ」
多分今は、下手な答え方をするとマズイ。
2人きりの業務フロア
麻里奈の視線になんとなくそう思えて、できるだけスマートに彼女との距離を測れるよう言葉を選ぶ。
少しの沈黙の中、ふと頭にAの顔が浮かんだ。
…もう、切り上げた方がいい。
そう思い直し、入力作業を止めてPCをオフにする。
「俺、もう終わるから。タクシー2台呼ぶか『そうやって、いつも私から目を背けてた』」
俺が言い終える前に麻里奈がそう口を開いて、立ち上がり様にジャケットを羽織ろうとした手を止める
『どうして…あんな女なの？』
…は？
『私が翔を諦めたのは。あんな女のためじゃない』
『翔のこと、大切にしてくれるならって…そう思ったのに』
あんな女？
「ごめん、ちょっと何が言いたいのかわかんねーんだけど」
浮かび続ける疑問符と、その意図が読めずにいる俺に、麻里奈はこう言い放った。
『あのヒト、翔だけを見てるとは思えない』
『翔…どうして、あんな飲み屋の女がいいの？』
“飲み屋の女”
頭を、ガツンと打たれたような感覚。
話の脈筋からすると、おそらく…
『お前…Aの店に行ったの？』
視線を合わすまいと逸らし続けたにも関わらず、思わず彼女と目を合わせた
「二宮さんも、生田くんも…えらく高く買うから」
「どんなものかって、思うじゃない」
“もし今の翔に。別の大切な人がいるのなら
潔く身を引こうって、決めてたから”
不意に
東銀座の小さなバーでの麻里奈の言葉が頭をよぎる
呆気に取られる俺に構うことなく、麻里奈が口を開く。
.
「…智って言ってた」
「智と結婚するんじゃなかったのか？って」
「彼女。矢継ぎ早にそう言われてたわよ」
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ゆり:)(プロフ) - このお話が大好きで再開してくださり、とても嬉しいです。取材を受けられるなんてすごいですね！お店に行ってみたいです！ (2021年10月5日 20時) (
レス) @page31 id: 4c9de357d4 (このIDを非表示/違反報告)
miihoo(プロフ) - こんばんは。お仕事の方もお疲れ様でした。更新もありがとうございます。私もざっくり飲食関係の仕事なので身近に感じて毎回楽しみにしています。そしてこのお話の翔ちゃんが大好きです。続きを楽しみにしてますね！ (2021年10月2日 19時) (レス) @page27 id: 4ea876c979 (このIDを非表示/違反報告)
nao(プロフ) - 続きが楽しみです！楽しみにしています！！ (2021年9月19日 18時) (レス) id: afb0ab4a24 (このIDを非表示/違反報告)
shi(プロフ) - こんばんは。元彼女め…とモヤモヤしますね( .. ) この後の展開がドキドキです！！更新楽しみに待っています！ (2021年5月29日 21時) (レス) id: 4f699932a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ティファニー | 作成日時：2021年5月23日 0時
