やさしい食卓三。【SS】 (ページ29)

今日:3 hit、昨日:5 hit、合計:132,921 hit

八十九。すげームカつくページ29

.

翔さんがシャワーへ向かって。

広いリビングに一人ポツンと残り、急に手持ち無沙汰になる。

.

ふと視界に入った、リビングの壁一面の窓から望む東京の夜景

その煌びやかな景色に、吸い込まれるように引き寄せられ

窓ガラスの前にしゃがみ込んで、体育座りをして眺めてみる。

両脚の爪先を揃えて、窓ガラスに近付けて。

こうしていると、まるでこの夜景の中に自分の身体が浮かんでいるような感覚になった。

.

.

.

『何してんのこんなとこで(笑)』

しばらくその体育座りの状態で夜景を眺めていたら

シャワーから上がって肩にタオルをかけた上半身裸の翔さんが、

フワッと後ろから私の身体を包み込む。

そんな私たちの姿が、反射した窓ガラスに写り込んでいて。

後ろから回された翔さんの腕に、そっと私の手を乗せてみる。

「…なんか、この景色に吸い寄せられちゃって」

私がそう応えると、彼はクスッと笑って

『ここに来ればいつでも見れるよ』と言った。

何故だろう、彼のその言葉に凄く胸が熱くなって。

.

「ねえ、翔さん」

心の内を、漏らしてしまう

「私、初めてじゃないとはいえ、もう何年もこんな事無かった」

外の景色に目を向けたまま、首元にある彼の腕に頬を寄せる

「だから、本当は少し不安なの」

「もう、こんな言葉が可愛く映るような歳じゃないの、分かってるけど…」

.

ここまで

まだ反応のない翔さんに、不安が加速する

.

と、その瞬間

彼が、私を抱き締める腕にグッと力を込めた

.

『それ、俺にとっては好都合でしかないけど』

私の耳元で、優しく囁く

『寧ろ、俺以外の誰か一人でも、Aの全てを知ってるヤツがこの世に存在するって考えただけで』

そっと顔を上げると

窓ガラスに反射する翔さんと目が合う

『すげームカつく』

『俺、ちっちゃい男だな』

その言葉に堪らなくなって

ゆっくりと彼の正面に向き直り、彼の頬に両手を当て、大きな瞳を見つめる

「もう…どうしてそんなに優しいの」

私がそう言うと

彼は少し目を丸くして、気が抜けた様にフッと笑った

『Aは特別ね』

翔さんは優しい目をしてそう言った瞬間、私の背中と膝裏に自分の両腕を回して

私の身体を軽々と持ち上げた。