やさしい食卓三。【SS】 (ページ28)

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八十八。緊張ページ28

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『A…』

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甘く擦れた声で、そう私の耳元に囁いたかと思うと

気付けば彼の両腕が私の鎖骨辺りで交差して、後ろから抱き締められている形になっていた。

そして

そっと後ろ髪を掻き分けたかと思うと

私のうなじにキスを落とし始める

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…今思えば、この映画も誘導尋問だったのかもしれない。

現実の自分たち同様、尚もラブシーンに縺れ込む映画の中の2人を見て、そう思わざるを得なかった

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しばらく身動き出来ずにいると

うなじに触れていた彼の唇が、私の首筋を辿って

どんどん正面に近付いて来る

そうしてとうとう彼の唇が私の唇を捕らえて

その左手は私の首の後ろを掴み、みるみる内に深いキスへと変わって行った

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…まずい

このままだと、彼は止まらなくなってしまう

そんな焦りを煽るように、画面の中の2人のラブシーンもどんどん濃いものになって行く

そして遂に

彼の手が私の腰からのラインをなぞり始めて

私は思わずキスを途中で制して、彼から顔を離した。

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「…翔さん、シャワー、浴びたい」

どうしようもないくらい “男” の顔をした彼を見つめてそう訴えると

彼も少しハッとしたように、私から身体を離した。

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『あ、ごめん。つい……』

“バスルーム、こっち”

そう彼に案内されて、持参したスキンケア品を持ってバスルームへ向かう

『タオル、これ使って』

そう言って彼が私にバスタオルを渡していなくなった後、服を脱いで浴室に足を踏み入れる。

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もちろん、初めてという訳じゃないけれど

随分の間こういう事が無かったので、不安な気持ちがないと言ったら嘘になる。

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あ、このシャンプー、翔さんの香りがする…

不意に感じたその香りに、少し緊張が和らいだ気がして

再度、身体を洗う手を動かし始めた。

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「翔さん、シャワーありがとうございました」

バスルームを出て、彼のいるリビングに戻ってそう声を掛けると

“ああ” と言ってソファーから立ち上がる。

『俺も入って来るわ』と、言って

すれ違い様に私の頭にポンっと手を置き、優しく微笑みかけてくれた。

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どうしよう

和らいだはずの緊張の波が、また、戻って来てしまった