やさしい食卓三。【SS】 (ページ3)

今日:1 hit、昨日:3 hit、合計:132,876 hit

六十三。同級生ページ3

“俺の友達がやってる店を予約してあるから、そこで良いかな？”

彼に連れられてやって来たのは

広尾の閑静な街並みに隠れ家のように佇む、イタリアンレストランだった。

『翔！久しぶり』

そう言って笑顔で私たちを出迎えてくれた男性に、櫻井さんが応える

『隆ちゃん、ご無沙汰しちゃってゴメン』

そう櫻井さんが申し訳無さそうに言うと

『いやいや、まだこっち帰って来たばっかりだろ？久々に会えて嬉しいよ。あ、席こっちね』

と言って、テーブルに案内してくれる

『Aさん、こちらここの店主で俺の同級生の佐藤隆太』

櫻井さんがそう紹介すると、佐藤さんは “初めまして” と笑顔で応えてくれた。

『翔から聞いてます。代官山の方でお店やられてるんですよね？』

「あ、はい、そうなんです。そんな立派なものじゃないんですが…あ、Aと申します」

私がそう彼に挨拶すると、佐藤さんは

『翔の帰国祝いに良いシャンパン入れといたから！』

と言って、自らサーブしてくれる。

『じゃ、ごゆっくりね。料理用意して来るから』

.

.

『隆ちゃんは、高校からの同級生なんだけど』

佐藤さんがテーブルを去った後、櫻井さんが口を開く

『大学2年の時だったかな？

“シェフ目指す”って言って、突然大学辞めてイタリアに渡ったんだ』

へぇ…すごい行動力

『当然周りはみんな驚いてたんだけど』

『周りの心配とは裏腹に、本人は現地でどんどん腕を上げていって』

『5年くらい前だったかな？帰国して、自分の店を持ったの』

『それが、この店ね』

.

店内の広さは、20席程だろうか。

小さなカウンターと、テーブル席が4つ。

店員は店主の佐藤さんを含めて三人だ。

上品な内装ではあるけど、堅苦しくなく居心地の良い雰囲気に感じる。

『俺ね、学生時代の友達がすげー好きなんだけど』

私は、櫻井さんの “すげー” が、意外と好きだったりする

『そのみんながさ、頑張ってる姿見ると』

『嬉しくて誇らしい気持ちと、俺も頑張んなきゃって気持ちになるんだよね』

.

大好きな友達の話を嬉しそうに話す櫻井さんから

今までに見た事のない、彼の素顔の一面を垣間見れたような気がして、私も嬉しくなる。

そんな彼の話を聞いている内に

“お待たせ～” と言いながら、佐藤さんが前菜を運んで来てくれた。