やさしい食卓三。【SS】 (ページ15)

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七十五。現れなかったな【翔】ページ15

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二宮の言う通り、

今日はAの誕生日ということもあってか客の入れ替わりが滞ることはなくて。

ずっと居座ると彼女にも気を遣わせてしまうし、ちょっと申し訳ないから

一通り食事を終えた俺たちは、2軒目に場所を移す事にした。

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『二宮さん、これ』

そう言ってAは、二宮に何か包みを手渡した。

『酵素玄米のおむすびと、イワシの佃煮を包んであります。奥様に召し上がって頂いて下さい』

『妊娠初期は、食事がすごく大切な時なので…』

そう言うAから、奥さんへのお土産を受け取った二宮は

『お～マジ？流石だねAさん、ありがとう』

と言って、嬉しそうな表情を見せた。

こういう心遣いが自然に出来る女性は、そうそう居るもんじゃないと思う。

「A、ありがとね。終わる頃に電話するから」

そう言って、名残惜しい気持ちを何とか抑えつつ、俺たちは彼女の店を後にした。

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『いや～翔くん、良い子見つけたね。なんか俺、安心したよ』

2軒目の隆ちゃんの店のカウンターで、

一杯目のウイスキーに口を付けた松本が俺にそう言った。

『しかし、今日はライバル現れなかったな』

その突然の二宮の発言に、松本も俺も “？” マークを浮かべる

『今日、Aさんの誕生日だから、現れるだろうと思ったんだけどね』

…は？

『何？ライバルって』

分かり兼ねた松本がそう二宮に問い掛ける

『ん？ああ、翔さんの強敵ライバルがいるのよ』

『この間、Aさんの店で遭遇して。幼馴染だってさ』

…幼馴染？

『まあでも、2人は上手くいった訳だし。心配ないか』

いきなり来た二宮からの情報に、少しモヤモヤした気持ちになる。

“本当はずっと、寂しかった”

…ダメだ、気を抜くとすぐに昨夜の情事がフラッシュバックする。

とにかく…彼女とのキスが、良過ぎた。

彼女から香る甘い香りと、柔らかい身体

俺を見つめるキレイな瞳には、涙を一杯溜めて

本当、何とかキスだけで耐え抜いた自分を自分で褒めてやりたい。

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『翔、昨日の女の子はどうだったの？』

俺らが座るカウンターのパントリーに戻って来た隆ちゃんが、そう俺に訊いて来た

「あ…うん、お付き合いする事になった」

“お～良かったな、おめでとう！”

隆ちゃんはそう言うと、

昨夜同様にまたお祝いと名して、シャンパンを一本開けてくれた。